常闇の光

□それはきっかけ
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「……じゃあ…、じゃあ、この前言ってた死にかけたって言うのは…!」
「…ホントに死んだ。」
「でも…っ、シュヴァーンさん生きてます!
ちゃんと体温あります!」
「……それは、コイツのお陰だ。」

シュヴァーンが晒したのは左胸に埋められた魔導器。
よく見れば、その中心は脈打っているかのように、規則的に明滅している。
驚いたような弥槻に、シュヴァーンは自嘲気味に笑った。

「死んだはずの俺は、コイツを埋め込まれて生き返ったんだよ。」
「じゃあ、他の人たちも…、」
「成功したのは、俺だけだった。」

一瞬、期待に顔を輝かせた弥槻も、シュヴァーンの感情の無い言葉に再び絶句する。
そんな弥槻を見ながらも、シュヴァーンは一度語り始めると歯止めが効かなくなっていた。

「仲間も全滅して打ちのめされてる所に、故郷も魔物に滅ぼされたって聞いてさ、

―…もう、俺を知ってる人間がいなくなっちゃったんだよ。」
「シュヴァーンさ…、」
「コイツを止めたきゃ止めろって言われたけどさ、【死人がもう一回死ぬ必要なんて無い】訳だ。」

弥槻の言葉を遮って言葉を紡ぐが、何故か胸の痛みが大きくなってきていた。
弥槻が今にも泣きそうな顔をしているせいか、自分が捲し立てるせいなのか、シュヴァーンには分からない。

「そう言ったらさ、【死ぬつもりが無いのなら新しい生を生きろ】って言われちゃって。

ダミュロンは死んで、シュヴァーンが生まれたって訳よ。」

おしまい、と言わんばかりに手を一つ叩いたシュヴァーンは、弥槻の異変に気付いた。
彼女の瞳からはらはらと涙がこぼれ落ちている。
その涙を拭うこともせず、弥槻はシュヴァーンに駆け寄ってきた。

「なっ、ちょ、弥槻!?」
「辛かったんですね、独りぼっちになっちゃったんですね…!」
「……………辛かった…、のかな、俺…。」

そうは言ったものの、シュヴァーンは弥槻に話をしたことで、胸の支えが消えたような気がしていた。
死んでいた自分のために泣いてくれる弥槻に、シュヴァーンは小さく笑う。

「弥槻…、俺、生きてて良いのかな…。」
「もちろんですよ!」
「俺、一回死んだのに?」

今、自分は酷く意地の悪い笑顔をしているに違いない。
そう思ってしまうほど、シュヴァーンの声は皮肉めいていた。

「―……馬鹿ぁっ!」
「…っ、弥槻…、痛い。」
「バカバカバカ!
シュヴァーンさんの分からず屋っ!」
「…ちょ、だから痛いっつの!」

馬鹿だ馬鹿だと詰りながら、弥槻はひたすらシュヴァーンを殴る。
彼女の力はそれほど強くはないはずだが、連打されているせいか地味に痛い。
シュヴァーンには、何故これほど糾弾されなければならないのか分からなかった。
恐らく、先ほどの皮肉めいた発言が原因だろうが、ここまで糾弾されるほどだったか。

「…おい、弥槻いい加減に…、」
「痛いでしょ!?
いくらシュヴァーンさんでも少しは痛いですよね?」
「あぁ、だから…、」
「ほら、シュヴァーンさん生きてる!
過程は確かに衝撃的でした。
でも今、シュヴァーンさんは生きてるじゃないですか!
一回死んだ分、今を大切に生きれば良いじゃないですか!」

涙目のままそう言われて、シュヴァーンはかつて言われた言葉を思い出した。

『君は生きているのだ。』

かの小隊に理想を求めたその男にも、同じように糾弾された。
当時は何も感じなかったが、ようやく気付いた。

「……俺ってば最低。」

かつて感じた痛みも、空虚も、全て生きていたからこそ。
一度死にはしたものの、確かにシュヴァーンは生きていたのだ。
その事に気付かせてくれたのは、目の前で今だ涙を湛えたまま見上げる少女。

「俺は、ずっとここにいたんだな。」
「…………?
シュヴァーンさんが来てから半年くらいですよ?」
「…いや、そういう意味じゃなくて…。」

自分の呟きに不思議そうな顔をする弥槻の頭を撫でながら、シュヴァーンは目の奥が熱くなるのを感じていた。
それを隠したくて、彼女の小さな肩に頭を乗せれば、弥槻は目に見えて狼狽する。

「シシュシュシュヴァーンさんっ!?」
「あーぁ。
色々思い出したら、センチな気分になっちゃった。」

おどけて見せようにも、声を発することで既に泣きそうになっていることを知り、シュヴァーンは苦笑いを溢す。

「……死んでたおっさんのわがまま、聞いてくれる?」

シュヴァーンの問いに、弥槻は小さく頷いた。

「……もう少しこのまま……、肩、貸して?」
「……私の肩で良ければ、いつでも貸しますよ。」

言葉と共に、ぎこちない動きで自分の頭を撫でる優しい手。
もう、限界だった。
長い間溜め込んだ痛みを吐き出すように、しばらくの間、一人の男の嗚咽だけが部屋に響いた。




((俺は俺だった。
ずっとそうだったんだ。
やっと思い出したよ、キャナリ。))
(シュヴァーンさん意外と癖っ毛。)
(……弥槻ってばホントに…。)
(???)

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