常闇の光

□それはきっかけ
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「……ちょっとは落ち着いた?」
「シュヴァーンさんじゃない…。」

少し落ち着きを取り戻した弥槻。
シュヴァーンじゃないから、と自分の手を嫌がる彼女に、ダミュロンは苦笑するしか無い。
やはり、弥槻にとって自分はシュヴァーンなのだ。

「シュヴァーンって名前も、俺なの。」
「じゃあ、今までのは全部嘘だったんですね。」
「……何て言うかなぁ。
俺の延長線上にシュヴァーンがいる。
だから、シュヴァーンが感じたことは、突き詰めていくと俺が感じたことなんだよ。」
「何で別の名前を名乗る必要があるんですか?」

質問を止めない弥槻に、ダミュロンは思わず頬を掻いた。
やはり彼女は鋭い。
こんなに早く、核心に迫られるとは思わなかった。

「…焦らなくても話すって。
人間と魔物の闘い、そして、帝国所属の騎士小隊の話。」

そう言って小さく笑うと、死んでいた男は語りだした。
己の記憶の底に封印した、かつての惨劇を。



******




昔から、帝国の騎士団には
根深い確執がありました。

貴族出身の騎士と、平民出身の騎士は互いにいがみ合い、
足を引っ張り合っていました。

そんななか、身分を問わず、有能な者を集めた小隊がありました。


青のイメージカラーを纏ったその小隊は、騎士団では珍しく、変形弓を主な武器とする小隊で、任務以外でも人々の為に積極的に活動しておりました。

そんな彼らに、他の小隊と共に、帝国の最大機密である砦の防衛任務が下されます。

船上で魔物の襲撃や、仲間内の不和に手間取りながらも、ようやく辿り着いた砦には、彼らが見たことがない最新の魔導器がありました。

本来動かすことの出来ない、魔物を退ける結界魔導器の小型化。
威力も段違いに強い可動式兵装魔導器。

砦に残り、それを見せられた遠征隊は驚きました。
それらの魔導器は、とても素晴らしいもので、発明した科学者の手を取り、誰もが魔物から勝利を勝ち取れるものだと思っていました。


しかし、彼らに有利な状況は、たった一体の魔物の出現により一変します。


魔物を退けるはずの結界は、その侵入を許しことごとく破壊されました。
兵装魔導器も、至近距離では効果を発揮できず、技師達は無抵抗のまま死んでいきました。


虐殺が始まったのです。



「救援しなければ!」


砦に残って、その様子を見た小隊長は叫びました。

「今ならまだ間に合う!」


そして、青い小隊は戦火へと身を投じました。
彼らの活躍を見た本隊も加わり、多くの騎士を虐殺から救ったのです。

しかし、強大な魔物が現れ、結界も役に立たない以上、砦の放棄が決定されました。

まだ夜も明けぬうち、砦を出発した彼らに、再び魔物の軍勢が襲い掛かります。
そんな時、後にしてきたばかりの砦から光が放たれました。

兵装魔導器の光です。

「誰か砦に残った人間がいるのか?」

頭にちらつくのは、褒め称えられながら浮かない顔をした科学者。
巨大な魔物の攻撃に飲み込まれた砦を背に、彼らは小さく黙祷を捧げました。

その後も魔物の攻撃が緩むことも無く、一人、また一人と仲間が減っていきます。
そんな疲労困憊の彼らの目に、ようやく待ち望んだ景色が映ります。

「……海だ…!」


海に行けば艦隊が待っている。
艦に乗れば二週間ほどで帝都に帰ることが出来る…。
そう思うと、騎士団の足は自然に早まりました。

しかし、残り僅かというところで、あの魔物が襲ってきました。

残ったのは、小隊長のキャナリと、副官のダミュロンだけ。
戦友たちの形見が入った袋がとても重く感じられます。

辿り着いた海辺にあったのは、傾き、横倒しになり、焼き尽くされて炭になった艦の名残。

背後には、ずっと後を付けていたであろうあの魔物。

帝都を出たときには千人以上いた騎士が、今はたった二人。

吹き飛ばされ、骨折したらしく、立ち上がれないダミュロンの前に、キャナリが割って入りました。

(こんなはずじゃない…。
逆だ。そうじゃないはずだ。)

痛みに呻くダミュロンをよそに、魔物とキャナリが同時に攻撃を放ちます。
眩しい光が消えたときには、目の前には相変わらず魔物がいました。

キャナリは、何処にもいませんでした。
絶望が、それを上回る怒りが彼の精神を塗り潰しました。

剣を構え、突進するも、すぐにその剣は真っ二つに折れてしまいました。

ぎこちなく視線を前に向けると、目の前から真っ直ぐに槍が突き出ています。
その槍は、ダミュロンの左胸から生えていました。

そして、彼は死んだのです。
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