常闇の光
□その瞳は
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「…………は?」
「……何を言って…。」
呆気にとられた弥槻達に構わず、シュヴァーンは口の中で小さく治癒術の詠唱を始めた。
「―…ファーストエイド。」
「…あれ、痛くない…?」
「俺の知り合いに、白い髪に赤い瞳の男がいる。
俺の瞳も碧色。
瞳の色に意味など無いだろう。」
怪我の具合を看ながら、思ったことを淡々と口にするシュヴァーンに、弥槻も周りの人々も口をポカンと開けた。
一様に何かを言いたげに口をパクパクしているが、言いたいことが見つからないのか、沈黙を破る者がいない。
「傷はさほど深くはないな…。
明日には傷も治るだろう。」
弥槻の頭をポンポンと軽く叩いたシュヴァーンは、ようやく自分が注目の的になっていることに気付いた。
数回の瞬きの後、気まずそうに視線を泳がせる。
そんなシュヴァーンに、弥槻は思わず吹き出した。
弥槻に釣られたかの様に、他の者にも和やかな笑顔が浮かんだ。
「……何を笑ってる。」
「いーえ、別に!
でも、ありがとうございます。」
「…………?
何を言って…!」
言いたいことだけ言ってニコニコと笑う弥槻に、シュヴァーンは追及を諦めた。
ため息を1つ吐き、苦笑いを浮かべたシュヴァーンは降参だ、と言いたげに両手を上げる。
「誘拐されたかと探し回ったと言うのに…。」
「どうしました?」
「何でもない。帰るぞ。」
「あっ、まって!」
パタパタと自分を追いかけてくる弥槻に見えないよう、シュヴァーンは安堵の息を吐く。
「……よかった、無事で…。」
「…あたっ!」
足を止めれば、いきなりで止まりきれなかった弥槻がぶつかる。
文句を言い始めた弥槻の頭を一撫でし、シュヴァーンは微笑んだ。
「…ようやく本来の弥槻に会えたな。
髪も整えなければ…。」
「………。」
何故か俯いた弥槻。
顔を覗き込もうとすれば、突然頬をつねられた。
「…ひひゃいぞ(痛いぞ)。」
「痛いようにつねってますから!」
強い口調で弥槻は言った。
心なしか顔が赤い。
「かへれもひいたか(風邪でもひいたか)?」
「引いてません!」
そんなやり取りをしながら歩く帰り道。
何度も歩いたその道は、今までで一番心が軽かった。
(…あっ!)
(…どうした?)
(砂糖とかご飯の材料とか散らばったままにしちゃった!)
(………………。)