常闇の光
□その瞳は
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「―…弥槻…?」
弓道場で剣を振るっていた腕を下ろし、シュヴァーンは怪訝そうに顔をしかめた。
彼女は今、台所にいるはずだ。
自分が鍛練している間に、弥槻が彼女用にお菓子を作ると言っていた。
その彼女が、助けてと言ったような気がしたのだ。
そんな筈は無いと思いながらも、何故か不安が拭えない
。
これでは鍛練にならないな…。
密かに苦笑いを溢しつつ、シュヴァーンは台所に向かった。
「………弥槻?」
台所を覗くと、弥槻の姿はなく、代わりに開け放たれた戸棚、そして物が散乱した台所。
「………っ!
弥槻ー!何処にいる!」
そう、きっとトイレにでも行ったのだ。
シュヴァーンの家中に響くような声にも、返ってくるのは静けさだけ。
弥槻がいない。
散乱した部屋。
助けを求める弥槻。
「…………っくそ…。」
小さく舌打ちしたシュヴァーンは、短刀を隠し持ち家を飛び出した。
******
「…女の子見ませんでした?
白い髪で、俺と似たような髪型の…。」
「…………知らないわ。」
「……そうですか…。」
礼を言いながらも、シュヴァーンは肩を落とした。
会う人会う人聞いてきたが、これまで収穫は無い。
こうしている間にも、弥槻が危険に晒されていると思うと、気が気ではない。
「……ちっ…、いったい何処に…。」
「…げん……の……あ…ま!」
「…な…て…!」
気付けばよく利用するスーパーの近くまで来ていた。
何やら騒がしい雰囲気だ。
「何があったんです?」
「……ん…?
あぁ、痣持ちをちょっとな。」
「痣持ち…?」
怪訝そうなシュヴァーンを見てか、男はそれ、と顎で指し示す。
そちらに目を向ければ、長かった前髪を切り落とされ、一緒に切られたのか目蓋からも血を流す弥槻の姿。
―痣持ち。
そう言われてもおかしくない。
端正な弥槻な顔に、隠されていた目を覆うように、歪な痣が刻まれていた。