常闇の光

□その瞳は
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「……砂糖と…、もう今日のご飯も買っちゃお。
あ、あと殺虫剤…。」


カートを押しながら必要なものをカゴに入れていく弥槻。
夕食をどうするか悩んだ末に、先日シュヴァーンが喜んで食べていた鯖みその材料の重みも加わった。

「……こんな物かな…。」
「ねぇ。」
「………………。」
「おい、そこの痣持ち。」


背後からかけられた声。
気付いていながら弥槻は無視をした。
振り返れば更なる面倒が待っているのは明白だ。

(…無視無視無視…。)
「聞こえてんでしょ?
返事くらいしたらどうな…のっ!」


ガシッと肩を掴まれ、無理やり声の方を向かされた。
さほど広くないスーパー。
賑やかだった店内が、一気に冷え、静まり返った。

「…………何?」
(怖い怖い怖い…!)


弥槻は心を占める恐怖が顔に出ないよう、努めて無表情を装う。
だが、その様子が彼らの気に障ったようだ。
おもむろに弥槻のカゴから殺虫剤を取り出し、何のためらいもなく弥槻の顔に噴射する。

「―…何するの!」
「何で避けんのよ。」


間一髪で避けた弥槻の髪を、別の少女が鷲掴みにする。

「捕まーえた!」
「………っ、痛…。」
「何、痛いのー?
どうしたら痛い?」
「そのまま押さえといて。」


未だ片手に殺虫剤を持つ少女。逆の手にはハサミが握られていた。
楽しそうにハサミを鳴らしながら、少しずつ弥槻に近付く。


「…痣持ち、アンタのその鬱陶しい前髪…、無くしてあげるわ。」
「…………嫌だ…、」
「…アンタに拒否権なんて無いのよ。」
「…助けて…。」
「だぁれも助けてなんてくれないわ。」

―…シュヴァーンさん…っ!
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