常闇の光

□面影
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「……今が夢だとしたら、私にとって、シュヴァーンさんはとても幸せな夢です。
それと同時に、この夢から醒めた後を考えると、悪夢です。」

考えながら、だがしっかりと答える弥槻。
シュヴァーンにはその意味が良く分からない。

「この夢から醒めてしまえば、そこには辛い現実が待ってる。
夢は醒めたらお仕舞い、もう続きを見ることは出来ないから…かな?」

相変わらず的を射ない言葉達だが、弥槻の言わんとすることがようやく分かってきた。

「…現実逃避…のようなものか…?」
「そう、そんな感じ!」

パッと顔を輝かせた弥槻に、思わず苦笑いが漏れる。

「曖昧だな。」
「そう表現したのはシュヴァーンさんですよ。
………シュヴァーンさんは今、しあわせ?」
「………………!」


【幸せ】。
自分にはほど遠いもの。
そう思っている。
では、今のこの温かさは、何と表現すればいいのか。

「……しあわせ?」
「何で疑問系?」

シュヴァーンの答えが、弥槻は気に入らなかったらしく、頬を膨らませて不満を主張する。
その様子に微笑みながら、シュヴァーンは1人呟く。


「…なるほど、現実逃避ね…。」
「………………?」
「…つまり、この先には醒めることの無い悪夢が待っているという訳か。」
「…だから、シュヴァーンさん。」
「………何だ?」


真剣な顔で自分を見る少女に少しだけ目を見張る。


―…こんな悲しい表情をする子だったか…?


「……夢から、醒めちゃだめですよ。」
「…………………弥槻?」
「………シュヴァーンさんの夢が醒めたら、私も夢から醒めちゃう…。
そしたら、シュヴァーンさんいなくなっちゃうんでしょ!?
そんなのダメです…っ、独りは、もう嫌…っ!」

ポロポロとこぼれ落ちる涙。
これまで、弥槻の泣き顔は幾度と無く見てきた。
だが、今の涙は、これまでと訳が違う。

間違いなく、シュヴァーンを頼って泣いていた。
いつものように、簡単に頭を撫でてはいけない気がする。

「………………。」
「………ひっく…うぅ…。」


行き場を無くしたその腕。
少し悩んだ末に、結局彼女の頭に手が延びた。


『独りは、もう嫌…っ!』

弥槻の言葉に返事が出来ない。
いつの間にか治まっていた胸が疼いた。

「………………。」


その痛みの原因は弥槻の言葉なのか、心臓が痛んだのか…。


今のシュヴァーンには、理解出来なかった…―。




(…すまない…、今の俺には答えられない…。)
(…どうして…?)
(…………すまない…。)

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