常闇の光

□面影
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『………お父さん…?』

弥槻は確かにそう言った。
彼女は恐らく、その呟きがシュヴァーンまで届くとは思っていなかったのだろう。


「……そんな所に立ってないで、こっちに来たらどうだ?」


だからこそ声をかけた。
振り返りはしなかったが、普段通り弥槻は自分の近くに寄ってくると思っていた。
だが、背後に感じたのは息を飲み、体を強張らせる気配。


「………弥槻、どうかしたのか?
あ!おい、弥槻!?」

怪訝に思って振り向けば、走り去る弥槻。
そして、そのままの勢いでドアが閉まる激しい音がした。


気付かずに差し伸べていた腕。
行き場を失ったその腕を、力無く下ろしたシュヴァーンは、弓を握りしめた。

「…………弥槻…?」

少しだけ、彼女の記憶に触れたような感覚があった。
だがそれも、突然の胸の痛みに霧散していく。


『シュヴァーンよ…、いつまで夢を見ているつもりだ。』

この夢が覚めるまでですよ。

『その手に握るは弓ではなく、私が与えた剣ではないのか。』


こっちの勘も鈍らせるわけにはいかないのでね…。

『戯れ言を…。道具の分際で何をほざくか。
弓を捨てろ、剣を握れ。』

うるさい…。

『道具は何も考えなくていい。』

……うるさい……。


『……違うか?【ダミュロン】。
君は私に生かされているに過ぎない人形なのだ。』

「―…うるさいっ!」
「……しゅ…シュヴァーンさん…?」


弥槻の不安げな声が聞こえる。
だが、頭に響く声が止まらない。


『君は悪夢を見ているのだ…。
その少女が悪夢の根元…、殺したまえ。』
「…どうしたんですかっ!?
どこか痛いんですか!?」


軋む首を動かして弥槻の姿を捉えた。
今にも泣きそうな顔をしてこちらに走り寄ってくる。


「……弥槻…。」
「…大丈夫ですか!?」
「…君は…悪夢か…?」
「…………はぇ?」


自分でも馬鹿な事を聞いたのは分かっている。
悪夢であろうとなかろうと、目の前の彼女が肯定の言葉を口にするとは思えなかった。

だが、弥槻から放たれた言葉に、シュヴァーンは内心ゾッとした。

「……うーん…、否定は出来ないかなぁ…。」
「………………何故?」
「……何故…、なぜ…?」

うーん、と首を傾げて考え込んだ弥槻は、自分が何故肯定の言葉を返したかさえ分かっていない風だ。
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