常闇の光
□面影
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弥槻はフラフラとリビングへと歩いていた。
その足元は、まだ半分眠っているかのように覚束ない。
(…うーん…眠い…。)
目を擦りながら1階へ下りると、何かが風を切る音が聞こえてくる。
一定だったり、不規則だったり。
(…誰…?)
記憶を手繰り寄せても、それを可能とする人物は、今朝方の夢に出てきた父しかいない。
(…まさか…。)
音の出所は、弥槻が自分の中でその扉を封印した弓道場。
弥槻はその音に惹かれるように、自ら恐る恐る封印を開けた。
弓道場の真ん中には、弓を構える凛とした立ち姿。
弓が放たれれば、狂うこと無く的の中心に命中した。
「………お父さん…?」
まだ、夢を見てるのかな…?
そう勘違いするほど、父の姿と重なる。
だが…―。
「…そこで見てないで、こっちに来たらどうだ?」
「………………っ!」
振り返らずに弥槻に声を掛けたのは、父ではなくシュヴァーン。
そう、シュヴァーンだった。
(……………違う…!)
「………弥槻、どうかしたのか?
あ!おい、弥槻!?」
シュヴァーンが自分を呼ぶ声が聞こえる。
だが、弥槻はその声に背を向けて走り出した。
父の姿が重なるほど似ているのに、シュヴァーンは父ではない。
分かりきっていたはずの現実に、そして夢と現実を混合してしまう程愚かな自分に衝撃を受けた弥槻は、自分の部屋に閉じ籠り大粒の涙を溢した。
「……お父さぁぁあん…!」
そして気付いてしまった。
無意識の内に、シュヴァーンに父の姿を重ねてしまっていたことを。
弥槻の父は、優しかった。だが、その反面非常に不器用だった。
兄と母の不在を狙って弥槻にピアノを教えていたが、すぐにバレてこってり叱られた。
その不器用さが、何となくシュヴァーンと重なったのだ。
だが、何故今まで父の事を忘れていたのか…。
考えようとすればするほど頭はぼんやりしていく。
思い出してはいけない気がする。
「……シュヴァーンさんに…、悪い事しちゃったな…。」
いくら立ち姿が似てたからと言っても、他の人間に間違えられていい気はしないだろう…。
少しばかり心残りがあったが、とりあえず考えるのを放棄して、弥槻は自室を後にした。