常闇の光
□心の監獄
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『シュヴァーンさんは、静かにしててくださいね。』
そう言って、弥槻はリビングにあるインターホンに向かった。
その間にもチャイムは一定の間隔で鳴り続けている。
「……………はい。」
『あーやっと繋がったよー。
迎えに来たんだよ軽間さん。』
「……何度来ようと、私は学校になんて行きません。」
『何でだよー。楽しいぞ〜、学校は。』
小さな画面に映るのは、シュヴァーンくらいの歳の小柄な男。
取って付けたような笑みを、ニタニタとその顔に貼り付けている。
そして…。
(…………ガッコウ?)
聞き慣れない言葉だ。
少しばかり疑問に思ったが、先ほど弥槻に静かにしろ、と言い付けられたばかり。
そんなすぐに破る訳にはいかない。
(…まぁ、いいか…。)
そのうち分かるだろうと考え込むシュヴァーンを余所に、弥槻はインターホン越しにまだ会話を続けている。
『軽間さんの為だよー?
何で分かってくれないのかなぁ…。』
「……そんなの、分かりたくもありません!」
『そんな事言わずにー。
ちょっと玄関の鍵を開ければ、外なんてすぐなんだよ?
自分からそんな鍵をかけてちゃいけないよ。』
「………………。」
恐らく、男は弥槻の教育者か何かなのだろう。
表情こそ、本当に心配しているように眉尻は下がっているが、弥槻の肩越し、その小さな画面に映る表情は…―。
(…こいつ…、嘲笑っている…!)
無理に心配そうな顔を作っているためか引きつった頬、そして男の目は明らかに嘲笑っていた。
そんな歪んだ顔でご高説を並べ立てるその様は、滑稽を通り過ぎてもはや怒りを呼び起こす類いのモノ。
『外に出なきゃ学べないものもたくさんあるんだよ?』
「学びたくありません。」
『そんな事言うと、君の未来はお先真っ暗だ。
怖がることなんて何もない。
ほら、鍵を開けるんだ。
どうした?
簡単なことだろう…?』
男の口がニヤリと歪んだ。
それを見た弥槻がペタリと床に座り込む。
シュヴァーン極力音を立てないように彼女に近付けば、弥槻は嫌々をするように首を振る。
「……………。」
「…弥槻。」
『どうしたんだい軽間さん。
先生に、顔を見せてくれないか。』
「…………嫌だ…。」
『軽間さ〜ん?』
画面には、既に満面の嘲笑みを湛えた男の顔。
涙をポロポロと溢しながら首を降り続ける弥槻。
今にも大笑いをしそうな男を睨み付け、その固い拳を震わせたシュヴァーンの中で、何かが切れた。