常闇の光
□奏-かなで-
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「…そんな…。
褒めても何もありませんよ!?」
「褒めてはいない。
俺は事実を言ったまでだ。」
そこまで言われてしまえば、弥槻に反論する言葉は残っていない。
なお反論を探そうにも、頭は真っ白、口は意味も無くパクパクするだけだ。
「……いい曲だな。」
「…あっ!
本来の曲も聞いてみますか?」
私が歌うよりもいいだろう、そう思った弥槻はテキパキと音源の用意を始めた。
だが…。
「いや、いい。
俺は弥槻が歌うこの曲が気に入ったんだ。」
シュヴァーンは、弥槻の目に高さを合わせ、そう笑った。
「……また聞かせてくれるか?」
「………………あんなもので良ければ何度でも…。」
「謙遜しなくていい。
その音楽の力は、弥槻が大切に育ててきたものなんだからな。」
シュヴァーン弥槻の頭を優しく撫でた。
そんな事をされたことが無かった弥槻は、戸惑いながらも嫌悪感を抱かないまま、されるがままにされていた。
最後にポンポン、と軽く叩いて自分の頭から離れた温もりが、何となく落ち着く。
「……………。」
「………どうした?」
弥槻はシュヴァーンが撫でた頭をさすりながら、1人で何やら嬉しそうな顔をしている。
「……………。」
「…………弥槻?」
さすがに心配になって顔を覗き込めば、すぐ近くにシュヴァーンの顔があることに驚いたのか、弥槻は小さく声を上げて後退った。
「ビックリした…。」
「驚かせるつもりは無かったんだが…。」
「ビックリしたのは事実です!」
頬を膨らませて抗議する弥槻に、シュヴァーンは苦笑いで返す。
これは失礼した、と。
まだ頬が膨らんでいる弥槻に、シュヴァーンは笑いながら言った。
「そんなむくれていると、せっかくの美人が台無しだぞ?」
「……るっさいです!」
バサバサと音をたてながら飛んでくる楽譜を避けながら、シュヴァーンは楽しげに続ける。
「…その短気も直した方がいいかもな。」
「何をー!?」
逃げるシュヴァーンを追い掛けながら、弥槻は感じていた。
(―…人といるのって、意外と楽しい…かも…?)
今まで真っ暗だった世界に、小さな光が差し込んだような感覚を…。
(……ゼェ…ハァ…)
(何だ弥槻、もうバテたのか?)
(シュヴァーン…さんが…体力…ありすぎな…だけです…!)