常闇の光
□奏-かなで-
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――コンコン…。
「…………弥槻?」
シュヴァーンはドア越しに控えめな声で声をかけてみた。
だが、部屋の向こう側からは全く返事が無い。
「弥槻?失礼するぞ。」
まだ幼いとはいえ、女の子の部屋に入ったことで、彼の中で少なからず罪悪感は生まれたものの、一応断りは入れたからと、自分をごまかして弥槻の部屋に足を踏み入れる。
「……いない…?」
弥槻の部屋はもぬけの殻だった。
机にベッド、そして本棚があるだけの酷く無機質な部屋。
それはまるで、彼女の心そのものの様な錯覚に陥るほど、これが当然だという雰囲気があった。
「……………?」
ふと目を向けると、机に貼られた小さな写真が目に入った。
今よりも幼い弥槻、そして家族と思われる男女と少年。
笑っていた。とても幸せそうに。
とても楽しそうに笑っている……―、弥槻以外は。
写真の中の彼女は、今にも泣きそうな表情で、横に立つ少年を見ている。
「…………これは…。」
「…それが、今残っている唯一の家族写真です。」
背後からの声に驚いて振り返れば、部屋の入り口に弥槻がいた。
その腕は大切そうに本を抱えている。
「…人の部屋で勝手に何してるんですか?」
「………あ…いや…。
まだ寝ているのかと様子を…。」
ジリジリと近付いてくる弥槻が怖い。
後退りしようにも後ろには本棚。シュヴァーンにはもう逃げ場は無い。
「………あー…、弥槻?」
「……はい?」
「その…、……勝手に入ったりして…すまなかった。」
――ぺちっ!
「あたっ…?」
「…シュヴァーンさん、謝罪の言葉こそ、目を見て言って欲しかったですね。」
頭…と言うより、額を叩かれた。
弥槻はまだ少し不機嫌そうな表情だが、言い方は幾分柔らかくなっている。
「好きな歌手の曲を練習していたんです。
今まで人に聞かせたことは無いので、ただの自己満足ですけど…。」
「……曲?」
シュヴァーンの問いに、弥槻は彼をその場所に連れていってくれた。