常闇の光

□壁
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―…ガチャッ…

「……………っ!誰!?」
「俺だ、シュヴァーンだ。」

弥槻は泣き腫らした目でシュヴァーンを睨み付ける。
拒絶したのに、この男はその壁を無視して帰ってきた。

「さっきあっちに行っ……」
「…弥槻、今朝のように旨い料理を作ってくれないか?」
「……っ、だから私は…!」
「…魚が、食べたい、気分だな。」


シュヴァーンは、弥槻が怒鳴ろうとしても絶妙なタイミングでそれを遮る。
そして、弥槻の目を見て、静かに、ゆっくりと話し掛ける。

「……………っこの!」

手近にあったペットボトルを投げ付けても、彼は当たり前のようにキャッチする。

「……乱暴なものだな。」
「うるさいうるさいうるさい!」


さっきまで虚ろだった彼の瞳に、少しばかりの意志が見える。
さっきまで、何となく自分と同じ雰囲気があったのに…。


「…ど…して…。」

弥槻が散々暴れるなか、シュヴァーンは沈黙したままだった。
そして、弥槻のか細い声を聞いて、ようやく彼女に歩み寄りながら答える。

「…俺のようにはなって欲しくはないからな。」

1mほど手前で立ち止まって、シュヴァーンは更に続けた。

「……君は生きている。
生きているんだ。」


―…俺と違ってな。

最後の言葉は心の奥に仕舞い込み、弥槻と目を合わせる。
まだ泣いている弥槻の頭に手を伸ばしながら、シュヴァーンは人知れず願った。


―…この子が、俺の二の舞にならないように…。


俺が目覚めるまでに、少しでも光を…。


(…グゥゥウ…。)
(…凄い音だな。)
(……ご飯作るんで、あっち行ってください。)
(……つれないな。)

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