片翼の影

□十六ツ影
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「あーーーーーっ!!」

不意にそう叫んだかと思うと、カロルは一目散に走り出した。
何事かと遠くなっていくカロルを目で追っていると、少し遅れてラピードとリタも駆けて行く。
何事かと顔を見合わせる弥槻達に、カロルはその手を振って声を上げた。

「みんな、こっち!!水だよ、水っ!」
「オアシス!!」
「え……?」

カロルやリタの言葉に彼らの行き先に目を凝らせば、砂地に影となる岩場があり、その中心には滾々と湧き出る泉が見える。

「わぁ!水!!」

思わず歓声を上げた弥槻は、最後の力を振り絞ってカロル達の後を追い掛けた。
恐る恐る水に手を伸ばせば、その泉は幻でも何でもなく、火照った身体にひんやりとした水が心地いい。
はうー、と破顔して水で遊ぶその様子に肩を竦めたユーリは楽しそうに笑う。

「……ったく、みんなして力の出し惜しみしやがって……。」
「死んだ魚みたいな目は何処やったのやら。
あんな目ぇキラッキラさせちゃってさ。」
「フフ、私達も行きましょう?。」

保護者の様な顔で笑ったユーリ達がオアシスに着くと、既にエステリーゼ達は、水辺に座り休息を取っている。
靴を脱ぎ、半身を泉に浸けて至極幸せそうな子供達を見て、レイヴンは弥槻の側に腰を下ろした。

「……気持ちいい……。」
「生き返るぅ〜……。」
「おじさんくさいですよ、カロル君。」

弥槻がそう笑っていると、その隣でレイヴンもニヤニヤと笑みを浮かべている。

「少年も、いずれおっさんになるからねぇ。」
「れっ、レイヴンみたいになるの……?」
「そう、おっさんみたいに、ダンディで貫禄あるオジサマに……、」
「何処に貫禄があるってのよ。」

休息を取った事で体力と共に余裕も取り戻したのか、リタがいつもの調子でレイヴンを言い負かした。
そのやり取りを眺めて笑っていたカロルが、ぽつりと呟く。

「……このまま進むのも危険だよね……。」
「……そう、ですね。」

その表情には、このオアシスに辿り着くまでに体感した砂漠の厳しさを、身を持って思い知ったせいか、わずかに挫折の色が見えていた。

「……でも、ここで引き返したら、あの子達悲しむわね、きっと。」
「……両親を連れて帰って来ると、信じているんですよね。」
「とりあえず、力の続く限り行くわよ。」

ジュディスと弥槻が顔を見合わせると、リタが疲れた声色ながらはっきりと言う。

「あわよくば、フェローだって見付かるかも知れないですから!」
「だな。水場も見付けたし、もう暫くは捜索出来るだろ。」

リタの言葉にエステリーゼが頷き、ユーリも水を補充しながら、ここを拠点にすれば良いと言えば、他の仲間達も再び意欲を取り戻したようだ。
それぞれの水筒に水を補充し、この場所を拠点として、アルフとライラの両親の捜索を再開することにした。


******


何度かオアシスと砂漠を往復しながら捜索を続けていた弥槻達。
ふと、レイヴンが何かを凝視して立ち止っている事に気付いた弥槻は、何事かと声を掛けた。

「何か見付けましたか?」

弥槻の問いに、レイヴンは何て言うかねぇ、とその視線の先を指差した。

「……んー、いやほら、そこ。
なーんか変な生き物がいるなーって……。」

彼の指す方に目を向ければ、確かに砂の中にカサカサと忙しなく動くモノが見える。
そう理解した瞬間、それの脇から手が出て来たかと思えば、砂の中を泳ぐようにこちらに向かって来たのだ。

「うわぁぁぁぁあっ!!」
「どうして私の後ろに!?」
「だって弥槻怖がらないもん!!」

そのあまりの不気味さにカロルは悲鳴をあげて弥槻の後ろに隠れるが、他の者達も驚きとっさに警戒の構えを見せる。
あっという間にユーリの足を掴んだその手に、とうとう武器を抜こうとしたその時だった。

「ユーリなのじゃ!」

そう言いながら、勢いよく砂の中から顔を出したパティに、一同は驚きのあまり目を見開き、そして凍り付いた。

「パ、パティ……?」

思いもよらない再会に、すぐに武器から手を離し、砂だらけのパティの顔や服を払ってやる。
彼女が靴を逆さにすれば、当然大量の砂が溢れ出て来た。

「び、びっくりした……。」
「そりゃオレの台詞だって。
まさか、砂ん中で宝探しか?」
「ご名答なのじゃ。」

笑顔でそう答えるパティは、あの状態からどうやって見つけ出したのか、砂の中から大きな宝箱を引っ張りだした。

「まさか、それか?探してたお宝ってのは。」

先程の口ぶりから、今パティの手にある物が探し物なのだろうと思っていた弥槻達に、パティは首を横に振る。

「違うのじゃ。これはガラクタなのじゃ……。
それに、うちはお宝を見付けるのが目的ではないのじゃ。」
「記憶を取り戻す、ですよね?」
「そうなのじゃ!
そのために、祖父ちゃんのお宝、『麗しの星』を見付けるのじゃ。」

エステリーゼの言葉に頷きながらパティは無邪気に答えた。
だが、その肝心な記憶はまだ戻っていないらしい。
まだ旅はこれからだ、と言うパティの言葉を、ずっと黙って聞いていたリタが遮った。

「……ねぇ、こんな所でお喋りしてたら、行き倒れになるわよ。」
「それもそうですね。
……フルールさんも一緒に、一度オアシスに戻りますか?」

この灼熱の炎天下の中、立ち話などという自殺行為を、長々とやっている理由は無い。

「弥槻の言う通りですね!
パティも一緒に行きましょう。」
「む?宝探しの続きがあるんじゃがのう……。」
「ごちゃごちゃ言わないで着いて来る!!」

宝探しの続きがある、と言いながら、それほど 嫌ではないのか、リタの言葉に従ってパティは弥槻達にそのまま同行することになった。
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