片翼の影

□十五ツ影
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「……な、何とか倒した……!」
「あれだけ数がいると、倒すのも一苦労ですね……。」

バラバラになったコウモリ達も全て倒し、弥槻達が武器を収めながらそんな話をしていると、不意に背後から鋭い声が聞こえてきた。

「敵の施しは受けない……!!」

その声に驚いて振り返ると、いつの間に目が覚めたのか、膝を付きながらも、苦しげに顔をしかめてエステリーゼを睨んでいるイエガーの部下二人。
対するエステリーゼは、彼女達の前で困った顔で立ち尽くしている。

「バカにしちゃ、や〜なのよぉ……。」
「で、でも、その傷では……!」

どうやらエステリーゼは、何時ものように怪我人に治癒術を掛けようとしていたらしい。
強かに岩壁に叩き付けられた彼女達は、頭から血を流し、体中に傷を作っている。
そんな状態でも、二人は心配そうなエステリーゼを再び睨むと、二、三歩彼女から距離を取った。

「撤退する……!」
「バイバイだよぉ……。」

そう言った二人が何かを地面に叩き付けたかと思うと、一瞬のうちに辺りを真っ白い煙が覆い尽くした。

「臭っ……!何だこの煙……!?」
「ク〜ン……。」
「……は、鼻が……。
ラピード、大丈夫ですか?」

煙はすぐに薄くなったが、彼女達の姿は既に無く、そして煙幕の臭いも洞窟内に残ったままだ。

「これじゃ、ワンコも匂い追えないってか……。」
「けど、ほっとく訳にも行かねぇだろ。あいつらを追うぞ!!」

先ほどイエガーが逃げた通路を通ろうとするユーリに、弥槻は同じく走りながら問うた。

「……ここを抜けたら砂漠だそうですよ。」
「……丁度良いじゃねぇか!
こっちはちゃんと準備を……、」

準備をしてきた、と言い掛けたであろうユーリの言葉は、レイヴンとリタの呆れたような言葉に遮られた。

「……青年、俺らが準備したのは山越えね。」
「このまま砂漠に出るの!?
あんた馬っ鹿じゃないの!?」
「………………戻りますか?」

二人の言葉に、弥槻がユーリへと視線を戻すと、彼は罰が悪そうに走るスピードを上げた。
戻るつもりは無いらしい。
そうこうしているうちに、外の光が見えてきた。
どうやら、洞窟はここで終わりの様だ。
そして、入り口に近付けば近付くほど、熱気が徐々に強まってきている。

「うっ……、この熱気……!!」
「あっつい……!!」

目の前には、砂漠が広がっていた。
洞窟内が涼しかった分、外の熱気が余計肌を焼きつけるようだった。

「弥槻の情報通りってか……。」
「来ちゃったか、コゴール砂漠……。」

照り付ける太陽。
広大な砂漠には、ほんの僅かな緑が点在する他には、生き物の姿は見られない。

「コゴール砂漠……。」
「ここに、フェローがいる……。」

聞かなければならない事がある二人は、砂しか見えないこの砂漠のなかに、あの鳥の姿を探して目を凝らしていた。
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