片翼の影

□九ツ影
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「ですよねー、おっさんそんな気はしてましたよー。」

エステリーゼの答えに、レイヴンは肩を竦めて、しかし好都合だと続けた。
何でも、エステリーゼの護衛ついでに、ドンからお使いを頼まれたのだそう。
コゴール砂漠があるデズエール大陸の街。
そのノードポリカを仕切る闘技場のボス・ベリウスへ書状を届ける、という物だ。

「その内容って何なんですか?」
「秘密にしとけって言われてないし、まぁ良いかな。
ダングレストに来たあのでっかい鳥。
おたくらが言うところのフェローに関する事。」

弥槻の質問に、レイヴンは隠すでもなくあっさり教えてくれた。
それを聞いたエステリーゼが、パッと顔をあげる。

「それって、ベリウスはフェローについて何か知っているって事です?」
「……ん?あぁ、そうなるんだろうねぇ。」
「こりゃ、オレ達もそのベリウスに会う価値が出てきたな。」
「はい!!」

思わぬ所から手掛かりを得たエステリーゼは、先ほどよりも随分明るい表情だ。
砂漠へ行く途中で手掛かりを探すつもりだったのだろう。

「てな訳だから、おっさんと弥槻も連れてってちょーだいね。」
「うん!あっ、でも一緒にいる時はボクらの掟に従ってね!!」
「不義には罰を、って奴ね。
りょーかいりょーかい。」

そう頷いたレイヴンは、じゃあさ、と彼らににっこりと笑い掛ける。
その笑顔に、ユーリ達の背中に嫌な汗が伝う。

「さて、じゃあ仕事のお話しようか。」
「……仕事?だから、おっさんと弥槻がオレらと来るって話だろ?」

顔を引きつらせながら、ユーリがレイヴンに確認する。
その確認に、他にもこっちに仕事回したでしょーが、とレイヴンの瞳が細められた。

「違う違う。
……弥槻にやらせた色仕掛けよ。
うちの娘に何させてくれてんの。
しかも、天を射る矢に所属してるって知ってるよな?」
「それが何だよ。」

怪訝な顔をするユーリに、レイヴンはやれやれ、と肩をすくめた。
彼に言っても仕方が無いと判断したのだろう。
レイヴンの矛先は、元々ギルドの人間であるカロルに向けられた。

「聞けば、ヘリオードの時はもうギルド作ってたそうだな。
他のギルドの人間に物を頼むなら、それ相応の報酬が必要な事、知らねぇの?」
「……し、知ってたけど……、一緒に旅する仲間だし、レイヴンも許してくれるかなーって……、アハハ……。」
「ギルドは信用第一。
出来立てギルドに、旅の仲間だから、って言い訳は出来ないぜ。」
「あら、いきなり大問題ね。」
「ジュディスも他人事じゃないよ!」

困ったわね、と笑うジュディスに、カロルが小声で言う。
そして、じゃあボクらはどうすれば良いの?と不安げに見上げてくるカロルに、レイヴンは二つ、と指を立てた。

「一つ。こっちが請求する金額、キチッと頭揃えて即現金払い。」
「えぇっ!?お金!?
そんな、ボクら出来立てで、すぐに払えるお金なんて……、」
「二つ。」

カロルの抗議に耳を貸さず、レイヴンは二つ目の可能性を提示する。

「ギルドではなく、個人として頼んだ事にして、俺の娘にこんな事をさせた青年達は、俺から一発ずつ食らう。」
「……おっさん、ちなみに払うとしたらいくらだ?」

ユーリの言葉に、そうねぇ、と考え込んだレイヴンは、ちらりと弥槻に目を向ける。

「弥槻の年齢15歳、色仕掛けを仕掛けた人数、そしてその内容に依るな。」
「に、人数は一人です。
内容は……、えっと……、」

内容を言い淀んだ弥槻。
助けを求めるように、身のこなしを教えてくれたジュディスに目を向けるも、彼女はにっこりと笑うだけ。
困り果てている弥槻の様子に、レイヴンが無理して言わなくて良い、と彼女の頭を撫でた。

「20,000ガルド。」
「はぁ!?
おい、おっさん!さすがに吹っ掛け過ぎじゃねぇか?」
「払うの?殴られんの?」

俺はどっちでも良いけど、と笑うレイヴンに、首領であるカロルが意を決して口を開く。

「ぼ、ボクが個人で弥槻に頼んだんだ!」
「私もよ。弥槻なら可愛くなってくれると思ったものだから。」
「私もです!弥槻を着せ替えてみたかったんです!!」

カロルに続き、ジュディスやエステリーゼもそう言った。
弥槻が可愛いのは当たり前じゃない、と言うレイヴンは、三人の額をそれぞれ一発ずつ小突いた。
それでチャラにしたげる、と言うレイヴンは、青年はどうすんの?とユーリに向き直る。

「あー、もう分かった。
オレが弥槻の色仕掛けを見たかったからだよ!」

これで文句無ぇだろ、やりたきゃやれよ、と開き直ったユーリ。
そんな彼に、レイヴンも肝っ玉座ってるねぇ、と笑いながら指の関節を鳴らした。

「んじゃ、遠慮なく。
……歯ァ食い縛れ!!」
「……は?……ちょ、待……、ぐぁっ!?」

ユーリの制止は聞き入れられなかった。
レイヴンの拳は、見事にユーリの頬を捉え、彼は盛大に吹き飛ばされて行く。

「ユーリ!?」
「ローウェルさん!!」
「……んにゃろ、やってくれんじゃねぇか……!!」

すぐさま赤く腫れた頬に手を翳し、治癒術を掛けようとするエステリーゼに、これは治さなくて良い、とその手をやんわりと退けながら、ユーリはゆっくりと立ち上がる。

「今のは効いたぜ、おっさん……!」
「そりゃあねぇ?俺の手も痛いもん。
……あ、そうだ。忘れてた。
おいで、弥槻。」

ちょいちょい、と手招きされて、静観しているリタの背後から恐る恐る出てきた弥槻は、ゆっくりとレイヴンに近付いていく。
怒られるかな、と不安そうな彼女の頭に手を置いて、レイヴンは優しく笑った。

「頑張ったな。
似合ってたし、またあれ着ておっさんに見せてちょーだい?」
「へ、変じゃなかったですか?」
「ぜーんぜん。
旅してんじゃなかったら、あの格好のままでも良かったんだけどねぇ。」
「オレのセンス、なかなかのもんだろ?」

ニヤリと笑うユーリの言葉に、ピクッと眉を吊り上げたレイヴン。
背中を向けている為、レイヴンの様子はユーリには分からない様だ。

「やーっぱりお前の趣味か、ユーリ・ローウェル!
このロリコンが!!」
「ロリコン!?聞き捨てなんねぇな。
やろうってのか、おっさん!!」
「もーぉ!あんたらうっさい!!
やんなら外でやれ!!」

再びヒートアップしたユーリとレイヴンに、リタの怒りが爆発した。
部屋から追い出された二人は、そのまましばらく部屋の外で言い争っていた。
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