レプリカ編
□Episode70
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「……アッシュの奴、本当にここにいるのかな……。
せめて俺もあいつに呼び掛けられれば良いんだけど。」
「無い物ねだりしても仕方無いよ。
とりあえず早く終わらせて帰ろう!!」
「……うん、紫音が凍える前には終わらせるから。」
アッシュを追って、ベルケンドからロニール雪山にやって来たは良いが、問題はアッシュが何処にいるのかだ。
ガチガチと歯を鳴らす紫音は、これ以上喋ると舌を噛みかねない。
「仕方無いさ。とりあえず、奥のセフィロトまで行ってみよう。」
可能性があるとしたら、恐らくセフィロトの方だろうと、更に雪山に進んでいく。
すると、雪山の奥からこの場に似合わない顔ぶれが姿を現した。
「……あらん?坊や達もローレライの宝珠を探してるの?」
「え?何でお前達がローレライの宝珠の事を知ってるんだ!?」
「アッシュに協力してるからだよ。」
クネクネとしながらこちらへと歩いてくるノワールの口から、宝珠の名が出た事に驚くルークに、紫音はあっさりと答えを示した。
「その通り。アッシュの旦那がうるせぇからな。」
「あんたが宝珠を手に入れ損ねたとかで、そりゃあご立腹でゲスよ。」
困ったもんでゲス、とわざとらしく溜息を吐く彼らに、ナタリアが宝珠では無くアッシュの名に反応する。
「お待ちなさい。では、ここにアッシュはいるのですか!?」
その問い掛けに、漆黒の翼は一様に顔を見合わせると、こっちもか、と言わんばかりにため息を吐いた。
「あらん。あっちもナタリアナタリアうるさいけど、こっちもアッシュアッシュとかしましいねぇ。」
「えーと……、ナタリアが6割、レプリカが3割、残りはヴァン。旦那の話はこれで出来てるからなぁ。」
「レパートリー少なっ!!」
「アッシュの話つまんなそー……。」
ボソボソと小声で言葉を交わし合うアニスと紫音に、話題に上った本人達以外が納得した様に頷く。
どういう事だよ、と不満げなルークに、紫音は何でも無いよ、と肩を竦めた。
「……と、とにかくアッシュはいるんだな?」
「あぁ、奥で宝珠を探してるよ。
あたしらはここで待機さ。」
「ご愁傷さま!」
「何だい自分だけ人を風避けに使っときながら!!」
「偶然だよお姉様!」
「黙らっしゃい!!」
漫才の様なやり取りを繰り広げる紫音とノワールを他所に、奥にアッシュがいると分かったルークとナタリアが、今度こそ彼と手を組もうと勇み足で先を歩き出す。
「言い争いになるのがオチだと思うけどねぇ……。」
「同感。」
「まぁ、行かなければ分からないわ。」
そうは言いながらも、ティアもノワールの言葉に同意らしく、呆れた様な表情を浮かべながらも、先に進んでいるルーク達を追い掛けた。
「……結局、ここで雪崩に巻き込まれた人間は、みんな助かったと言う訳ですね。」
「そう言う事になるな。」
進んでいる内にいつの間にか、以前ラルゴやリグレットと戦った場所へと到着した。
紫音とリグレットの秘奥義が呼び水となって引き起こされた雪崩に巻き込まれ、紫音以外は皆、彼らは死んだ物だと思っていた。
しかし、彼らは生きていた。
そして、今なお紫音達の前に立ち塞がり続けている。
「教官達は、どうしてモースに協力するのかしら。
モースと兄さんの目的は違っていたはずなのに……。」
「ですが、以前から協力している節は見受けられました。
利害一致している時は手を組む。あるいは、お互いがお互いを利用しているのかも知れませんね。」
「うーん、モースは良い様に使われてるだけでしょ。
モースは預言預言で、それ以外には興味無いし。」
モースは全てを知らない。
彼もまた、良い様に使われ、不要になれば捨てられる存在だろう。
紫音の言葉に、モースでさえ影で操るヴァンという存在に空恐ろしさを感じたのか、アニスがその身体を震わせた。
モースに不本意な行動を取らされ続けた彼女のて手を握れば、弱々しい笑みが返ってきた。
「考えるのも良いですが、アッシュを追い掛けるのでは無かったんですか?」
「そうでしたわ!さぁ、行きますわよ!!」
先頭を切って歩き始めたナタリアの後ろで、不意にルークが何かを見付けたらしく、雪の中に屈み込む。
ルーク?と怪訝な顔を向けたガイやジェイドに、何でも無いよ、ただのゴミだと答えたルークに、2人は何を言うでも無く肩を竦めると、それ以上追求せずに足を進めた。