レプリカ編

□Episode69
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「……アニス。」
「…………私……、私……っ!!」

紫音がうつ向いて肩を震わせているアニスの頭に手を置くと、彼女はようやく顔を上げた。
今にも泣き出しそうなのを必死に我慢しているアニスは、震える声で話し始めた。

「……言い訳はしないよ。
……全部私が報告してたんだ……。」
「仕方無かったんだろ?
オリバーさん達を人質に取られてたんだから。」

だから、アニスは悪くないと言うルークに、アニスはそうじゃない、と何度も首を振る。

「……パパ達、人が良いでしょ?
私がうんと小さい頃、騙されて物凄い借金作っちゃったんだ……。
それをモースが肩代わりしたの。だから、パパ達は教会でただ働き同然で暮らしてたし、私も……、モースの命令には逆らえなかったの……。
ずっと嫌だった……。イオン様ってちょっと天然って感じで、騙すの辛かった。
馬鹿で、寝坊助で、おっちょこちょいの紫音もさ、一緒にいてとても楽しかったの……。」

しかし、モースは命じた。
騙しながらも、それなりに友好な関係を築いてきたイオンを、死なせる為に連れ出す事を。
そして、全てを知りながら、何も言わずに受け入れてくれた友人である紫音を殺す事を。

2人も大好きだった。
だが、それと同じ……、否、それ以上に両親が大好きだったアニスは、命令に従う事を選んだのだ。

「……でも、紫音はどう頑張っても殺せなかった……。
イオン様を連れ出してからも、紫音が助けに来てくれないかなってずっと待ってた……!!」

我慢出来なくなったのか、アニスは涙声になってきた。

「頑張ってたんだな、アニス。」
「違う、違うの!
そんなんじゃない……!!
私……!私、イオン様を殺しちゃうところだった……!」

優しいルークの言葉に、遂にアニスはルークに抱き着いて、声を上げて泣き出した。
しゃくりあげながら涙を流すアニスに、イオンも笑い掛ける。

「泣かないでください、アニス。
僕は、こうして生きているんですから。」
「ごめんなさい、イオン様ぁ……!
ごめんなさい、ごめんなさい……っ!!」

アニスの頭や背中を優しく撫でるイオンは、彼女が泣き止むまで、ずっと優しく撫で続けていた。


******


「……落ち着いたようですね。」

しばらく泣きじゃくっていたアニスも、ようやく落ち着いてきた。
まだわずかに涙声だが、アニスはようやく笑顔を見せた。

「……はい、大佐……。
私、もう少しみんなと一緒にいて、考えたいんです。
私がこれからどうしたら良いのか……。
仲間を……、紫音を、イオン様を殺そうとした私が一緒にいて良いのかは、分かんないですけど……。」

うつ向いたアニスの手を取って、イオンも同じく頭を下げる。

「僕からもお願いします。」
「……イオン様……!」

まさか、イオンがそう言うとは思わなかったのか、弾かれた様にアニスが隣にいる彼を見た。
その視線に気付いたのか、イオンが優しく笑い掛ける。

「さっきも言いましたが、僕は生きています。
紫音も死んでいない。
全部をモースに報告してきた、と言いましたよね。
邪魔が入りましたが、やるべき事は全て達成する事が出来たんです。」
「……確かに、預言の廃止に漕ぎ着ける事は出来ましたからね。
イオン様がそう仰るのなら、私からは何も言う事はありません。」

皆さん、それでよろしいですか?
全員を見渡してそう訊ねるジェイドに、全員がしっかりと頷いた。

「……良いの……?
私、また一緒にいて良いの……?」
「アニスは嫌なの?」
「そんなんじゃない!!
……まだ信じらんないだけだもん。」

そう呟くアニスに、紫音はにっこりと笑う。
夢か現実か、簡単に確かめる方法があるよ、と言う紫音に怪訝な顔をしたアニスの頬をつねれば、彼女はいたーい!!と悲鳴を上げた。

「はい、現実。良かったねー!!」
「全っ然良くなーい!」

頬を膨らませたアニスに笑いながら、改めてこれからの事を話し合う。

預言の件は、教団が落ち着くまでしばらく難しい、と言うイオン。
アッシュを探そうにも、彼が今何処にいるのか分からない。
皆が頭を捻る中、アニスが控え目に手を挙げた。

「私……、紫音がイオン様の代わりに言った預言を活用して欲しいな。」
「……あぁ、ベルケンドに瘴気を消す為の情報があるって言う……。」
「禁忌がどうこう、って話だったわね。」

つまり、どういう事だ?と首を傾げるルークに、紫音はルークに向き直ると、困った様に眉を下げた。

「……つまり、専門的過ぎて私には上手く説明出来ないって事だよ。」
「…………ふむ。今はそれしか無いでしょう。」

紫音の言葉に、ジェイドはしばし考え込み、そうするしか無いと頷いた。
それならば、早速ベルケンドへ向かおう、と言う流れになった時、不意にナタリアが口を開く。

「ですが……、いずれ考えなければなりませんわね。
私達は、ヴァンの求めていた預言を詠めない世界を回避しました。
だからと言って、預言を全肯定している訳でもありませんし……。」

神妙な表情を浮かべるナタリアに、それもそうだな、と皆が頷く。
その為にも、まずは事態を落ち着かせる事が先決だと、紫音達はイオンに見送られて歩き出した。
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