レプリカ編

□Episode68
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「……紫音、僕は……。」

後はダアトに戻るだけ。
そう踵を返そうとしたルーク達を、イオンの弱々しい声が止めた。
怪訝そうに振り返れば、そこには暗い表情のイオンがいる。

「『ティアの体内にある瘴気を貰って、消えるはずだったんです』。」
「……そこまで知っていて、何故……!
このままでは、ティアの身体は瘴気に蝕まれてしまうんですよ!」

普段のイオンからは想像も出来ない厳しい声。
その糾弾を受けた紫音は、分かっている、と頷いた。
どうするつもりですか、と続くイオンの言葉に、紫音はうつ向いた。

「……ずっと考えてた。
ディアルガの力で、ティアの時間を巻き戻せないかって。
瘴気を溜め込む前に戻せば、体調も良くなるんじゃないかって。」
「…………それは、フーブラス川を渡る前の状態に、ですか?」

ジェイドの確認に頷いて、紫音はティアに目を向ける。
成功すると言う保証も無い。
これは、一か八かの賭けだ。
それを見たティアが、腰にあるボールを手に取って、中を覗き込む。

「……出来る?」

不安げに訊ねたティアの手の中で、ボールが小刻みに揺れた。
かと思えば、中から咆哮と共にディアルガが姿を現したのだ。
何て言ってる?とルギアに通訳を頼めば、どうやらディアルガはティアの役に立てると張り切っているらしい。

「じゃあ、お願いするわ。」

そう頼んだティアの身体が、青い光に包まれた。
かと思うと、その光が次々と弾けていき、やがて光は消えていく。
どうだ?と期待と不安がない交ぜになった視線を向けられながら、ティアは何度か深呼吸をして、ゆっくりとその瞼を開いた。

「……苦しく、ない……?」

驚きに彩られたその呟きに、紫音は安堵のあまり彼女に抱き付いた。
目を丸くしながらも、何とか受け止めてくれたティアの腕の中で、紫音は良かった、と何度も繰り返す。

「これで誰も死なない……!
良かった……!イオンも死なないし、アニスも辛い思いしなくて良いし、ティアももう瘴気に悩む事無いし……!!」
「やだ、紫音ってば、こんな所で泣かないでよ……!!」

遂にはグスグスと泣き出した紫音をティアから引き剥がし、ジェイドはやれやれ、と溜め息を吐いた。

「まったく……。
何も言わずに何処かへ消えたかと思えば、こんな大事を隠していたとは。」
「うぅ……、ごべんなさい……。」

鼻を啜りながら、小さく謝る紫音に、ジェイドは後でお仕置きです、とにこやかに笑う。

「でも、これでもうイオンが命を賭ける必要は無いから!」
「……!!……フフ……、アハハ、やっぱり紫音には敵わないんですね。」

グッ!と拳を握った紫音に、驚いたらしいイオンは、すぐに肩を震わせて笑い出した。
何か変な事を言ったかと怪訝な顔をした紫音に、何でもありませんよ、と笑うイオンは、早く戻りましょうと言いながら、ダアトへの道を歩き始めた。
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