幼少期編

□Episode03
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「四がつからまいにちいっしょだね。」
「うん!」

典明と一緒に、自室で本を読んでいた春茉は、彼の視線を追って首をかしげた。
部屋の隅にきちんとハンガーに掛けられた、真新しい制服。
その制服に、春茉のトモダチは、これでもかと羽毛を逆立てて威嚇しているのだ。
羽毛のせいで、普段より大きく見えるトモダチに、春茉は困ったように俯いた。

「……さっきからね、ずーっとふさふさしてるです。」
「僕しってる!
あれ、イカクっていうんだって!」
「イカク……です?」
「うん。こっちにこないでーっ!っていってるって。
…………はるなちゃん、僕といっしょ、いや……?」
「……おそと、いや。」

驚いた典明に、春茉はポツポツと話し始めた。

典明のトモダチとは違い、春茉のトモダチは小さい。
いくら触れないとは言え、見えない人達に、大切なトモダチが踏まれるのを見たくないのだ。

「……そっか……。」
「あたまにのせてても、いつのまにかじめんにいるの……。」
「じゃあ、僕のトモダチの出番だね!」

今度は、春茉が驚く番だった。
ゆらりと現れた緑色のトモダチは、春茉のトモダチをふわりと抱き締めたのだ。
春茉自身が抱き締められている訳ではないのに、何故か凄くくすぐったい。
春茉のトモダチもくすぐったいのか、その手から逃げようとバサバサと翼を羽ばたかせる。
その翼に生えた爪が、緑色のトモダチの頬を引っ掻いた。

その途端。

「いたっ!?」
『!!??』

驚いた様に手を離したトモダチと、
同じ様に驚いている典明の、
頬の同じ部分に、小さな引っ掻き傷が出来たのだ。

二人とも、目を丸くして、同じポーズで頬を押さえている。

「わーっ、ごめんなさいっ!」
「う、うん。
ビックリしただけだよ。……っうわ!?」
「あーっ!!!」

春茉は思わず叫び声を上げた。
典明が手を離した瞬間、春茉のトモダチが縫い止められた口を開いて、典明の頬に噛み付いたのだ。
慌てて捕まえようとするも、トモダチはするりと春茉の腕をすり抜けて、部屋の中を楽しそうに旋回している。

「……いたく、ない……?」
「……えっ?」

典明の呟きに振り返ると、彼は先程まで血が流れていた頬を押さえて呆然としている。
その頬に、傷跡は全く無い。

「……すごい……!」
「ひぇ!?」

ぱぁっと笑った典明は、「すごい」を連呼しながら、嬉しそうに春茉に抱き付いてきた。
状況に着いていけていない春茉の混乱を他所に、典明は自分のトモダチに今起こったことを話して聞かせている。

「はるなちゃんのトモダチ、けがなおしちゃった!!」
「けが、なおしたの……!」

はるなの問い掛けに、トモダチは自慢げにその小さな胸を反らした。


「すごいね!はるなちゃん!!」
「う、うん……!!」

何が起こったか分からなくても、典明が誉めてくれていることは、春茉にも分かった。
それからしばらく、自分のトモダチには何が出来るのか、を話していた二人は、話題が尽きることはなく、夕飯が出来たと呼びに来た母親に、「仲良しね」と嬉しそうに微笑まれた。
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