土井利

□土井半助、5才
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 利吉は、いつもの土井先生ばかりでなく、5才の土井先生も1年は組に取られてしまった。

 やれやれ、と利吉はため息をついた。

 子供の頃のことはあまり語らない土井先生。

−きり丸とは境遇が似ているからな−

 ほんの少しだけつぶやて、遠い目をしていた。
 もし、子供の土井先生が孤独な目をしていたら、
 誰の助けもいらないと自分の殻にこもっていたのなら、
−生きていることはつらいことばかりではない
あなたを大好きな人達が、大切に思っている人達がいるよ−と、抱きしめてあげたいなどと思っていたのだが、

−その必要もなさそうだな−

 利吉は1年は組の子供達と楽し気に遊ぶ土井先生を眺めた。

「土井先生は小さくても、は組の連中の中心になって、普段と変わらんな」

「そうですね、父上」


 土井先生は1年は組の子供達に囲まれていた筈だったのが、いつの間にか利吉の前に立っていた。

「これ、あげる」

 手にはシロツメクサの花冠。

「きれいなお花だね」

「大きくなったら嫁にきてくれ」

 5才の土井先生はシロツメクサの花冠を差し出して、まっすぐに利吉にそう言った。

「え、…あの、えっと…
 ありがとうございます」

 5才の土井先生を前に利吉は真っ赤になって花冠を受け取った。





 再び煙が現れて、土井先生は元に戻った。

「あれ?授業が終わってから、私どうしてたっけ?」

 1年は組と山田先生と利吉が見守っている。

「利吉君!来てたの?」

「はい」

「えーっ、土井先生もう戻っちゃったの〜」

「つまんなぁ〜いっ、もっと5才の土井先生と遊びたぁ〜いっ」

「え、…あ? あーっ!あの壷!」

「ばれちゃった」と、利吉

「やばい」と、きり丸

「利吉君〜!きり丸〜!

「まぁまぁ、土井先生」と、山田先生が宥める

「かわいかったですよ、5才の土井先生。ね、父上」

「ああ」

「山田先生まで何ですか!」


 は組の子供達は山田先生の実技の授業に消えて行き、利吉は土井先生の部屋でお茶を飲んでいくことになった。

「で、そのにこにこ顔の理由を教えてくれるかい?利吉君」

 一方、土井先生はにが虫を噛み潰したような顔をしている。

「そうですねぇ…。土井先生は小さくなっても、私より1年は組の子達を優先させてしまうことが分かりました」

 授業やら補習やらで、普段、利吉との時間がなかなかとれないことに対する嫌味を聞かされ、土井先生の顔がさらに厳しくなる。

「それから…、土井先生の練り物嫌いが筋金入りだということも分かりました」

「練り物っ…、
 も〜っ、人を小さくしておいて、何たくらんでるんだっ!」

 土井先生は利吉にくすぐり攻撃を加えようとしたとき、利吉の手首にシロツメクサの輪が見えた。

「シロツメクサ?」

「あ、いただきました。土井先生に」

「私?」

 利吉はそう答えると、シロツメクサが運んできた日だまりのように微笑んだ。


「プロポーズされたんですよね〜利吉さん

 庄子ががらっと開き、きり丸が立っていた。

「こらっ、きり丸!」

 利吉は顔をまっ赤にする。

「きり丸、山田先生の授業は!?」

「もう、とっくに終わりました。教室の掃除が終わったので報告に来ました〜っ」

「ああ、そう」

「じゃあ、子供は退散しますんで、ごゆっくり続きどうぞ

「きり丸!」

 土井先生の投げたチョークがきり丸が閉めた後の庄子にあたった。
 利吉はお茶を入れ直しながら言った。

「土井先生ときり丸は似ているのかもしれませんね」

「どこが?私はさすがにきり丸ほどひと言多くないよ」

「違いますよ。
 どんな逆境の中でもへこたれないところです」

−そして、もし生まれ変わったとしても、貴方は私を見つけ出してくれると、そう自惚れていてもいいでしょうか?−
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