土井利

□山田利吉、5才
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「はじめっ」
土井半助と5才の山田利吉の剣術の試合がはじまった。 まだ小さいのに、さすがに筋がいい。太刀筋をかわすだけでもひと苦労だ。 ギャラリーがますます増えてきた。
「かわすばっかりじゃなくて、攻めないと試合にならんぞ〜」
「土井先生〜ちゃんとして下さいよ〜」
「そんな事言ったって、相手が利吉君じゃやりにくい、って、わ〜」
確かに逃げてばかりじゃ校庭の隅まで追い詰められてしまった。
しょうがない。ちょっとだけ刀で叩くか…

一瞬のこと

半助の太刀が利吉の背中をぽんと叩き、利吉の太刀が半助の左前腕を思っきり打ちつけた。
「いて〜!」
声を上げたのは半助のほう
「ここまで!両者引き分け! ただ実戦なら腕より背中のほうが致命傷だから、土井先生の勝ちかな。利吉君よくがんばったね」
「ありがとうございました」
「いや、こちらこそ、どういたしまして」利吉に打たれた左前腕がずきずき痛んだ。
すごいね〜やっぱり利吉さん子供の頃から強かったんだ〜。忍たま達が騒ぐ。

そこに、出張帰りの山田先生がやってきた。
「あっ、山田先生、これはですねぇ…」
「…利吉?」
「ちちうえっ!」
利吉が伝蔵に駆け寄って抱き付く。
「りきちぃぃ〜!」
ぶっ飛んだシチュエーションもそっちのけで、親子の抱擁を交わす。
忍術学園のギャラリー一同も、滅多に見れない親子ドラマに感涙した。
その時あの不思議な煙がどこからともなくあらわれて、利吉と伝蔵を包み込み、伝蔵が咳込むと、18才の利吉が現れた。

「あれ?わーっ!ち、父上どうしたんですかっ?」
「利吉…何もそんなに離れなくても…」寂しい伝蔵であった。
「わっ、どうしたんですか?みなさんまで」ギャラリーに取り囲まれている状況を理解できない利吉であった。

「実はね、きり丸が学園長先生からもらった不思議な壷があって…」
半助が今までの経緯を説明する。

「じゃあ、私が土井先生の左腕を傷つけてしまったんですか?!すみませんでした。」
「いや、そんなことはいいんだけど。もとはといえば私が不用意なことを言ったのがいけないんだし」
「5才の利吉はかわいかったのに…。もっと見たかったなぁ…」伝蔵がつぶやく。
「父上、今の私に不満があると」
「だって、抱き付いてきてくれないし…」
「当たり前でしょう」
「それにしても、小さい頃の利吉君は勝気だったんだねぇ。 今じゃあんまりそんなところみれないからなぁ」
「そうでしょう。利吉はあれで結構負けず嫌いでね。稽古で負けると泣いて向かってくるんですよ」
「…勝手に昔話で盛り上がらないで下さい」

「それにしても不公平だなぁ」土井の腕を冷やしながら利吉がつぶやく。
「不公平?」
「みんなで見世物みたいに私の子供の頃を見て」
「だからごめんって」
「私も見たいです。土井先生の子供の頃」
「え?」
「わしは?」
「父上のはあまり…」
いじいじ… 伝蔵がいじける。
「まだあの壷あるんですよね」
にっこりと、利吉が微笑む。
「きり丸!いますぐ売り払ってこい!」
「え〜、でもテストはいいんですかぁ」
「いいから行ってこい!」
「はぁ〜い」
その後の壷の行方は誰も知らない。
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