土井利

□姫行列
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姫行列は今夜は旅の宿に宿泊。何回か襲って来た刺客を半助が蹴散らしてくれたので、一同安堵していた。
「姫〜」
「用心棒は姫の寝所に入ってこないで下さい」
後ろからおろした長い髪をそうっと掻き分け、口づけをする。そのまま白いうなじに唇を這わせる。
「本物の姫、かわいそうですね。顔も知らない男と政略結婚だなんて」
「そうでもないらしいぞ。以前会ったことがあって、お互いに一目惚れだったらしい」
「そうなんですか!?」
「うん、乳母さんに聞いた」
「な〜んだ。 よかった」この仕事を引き受けるにあたっての、気にいらないボイントが少し消えた。

「私達もしようか?結婚式」
「え?」
「するめもこんぶもないけど、酒ならあるから三々九度をしよう」
「な〜んでこんな任務の真っ最中にそんな事思いつくんですか」
「普段はこんなことできないじゃ〜ん」
それはそうだ。忍術学園では絶対にできない。お姫様が政略結婚ではなく恋愛結婚だったらいいという明るいニュースにあやかり、半助の提案通り、二人だけの結婚式をすることにした。
杯をはさんで見つめ合う二人。三回に分けて、杯を飲み干した。いつまでもお互いに離れないことを誓った。
「じゃあ、結婚の記念にこれをあげよう」
そっと利吉の手に櫛を持たせた。綺麗な細工の、貝殻をちりばめたべっ甲の櫛
「え…どうしたんですか?こんなに高価な品…」
「何かプレゼントしたくてさ、準備したんだよ」
「性別間違えてません?」
「利子ちゃんの時でも使ってよ」
「町屋の利子ちゃんはこんな高級品つけませんって。…でも、ありがとうございます。大切にします」
「よかった。じゃあ、誓いのキスをしよう」
そして、いつまでも二人愛しあうことを誓ったのだ。


次の朝、姫行列はまた出発する。
「姫、お手を」
半助が手を差し出す。いつもなら普通に歩いている少し砂利が多いだけの道なのだが、姫だからしょうがないか。しかしエスコートされ、守られるのも悪くないかとも思ってしまう。
こんなときでもないと自分の髪に飾る時はないかもと、ゆうべ結婚の記念にもらった櫛を髪に飾ってみた。

もう少しで輿入れ先の領内に入ろうとする峠で輿から出て休んでいたところ、最後の刺客が現れた。
ひゅんっ 放たれた矢が利吉の頬の横を霞めて地面に突き刺ささった。利吉は無傷だったが、矢はゆうべもらった櫛を射ぬいてこなごなに砕いてしまった。
「あ、あああああ〜!…櫛が…」
そのとき、空からばさばさと鷹が利吉の元に舞い降りた。足に結ばれた文には姫が到着した由が印されていた。
「お前ら、残念だったな。本物の姫は無事に着いたぞ。これで同盟は成立した。」
「何っ?」
利吉は錦の小袖をぬぎすてた。
「姫、もうやめちゃうの〜?」
「土井先生、仕事は終わりました。輿のなかで身体がなまってるんです。櫛のかたき、とらせていただきます!」
懐中に忍ばせた、護身用の女ものの懐刀をぬく。
「あ〜あ。ほら、これを使え!」
半助から、利吉の刀が投げわたされた。愛用の刀を手に取ると、一人、二人とあっという間に打ち倒していく。

「姫役の方もお強いんですねぇ」
「はい。それはもう」
「加勢されなくてよろしいんです?」
「まぁ、動きたいみたいですし、楽しそうにしてますから」
半助は乳母と話しをしながら、利吉の戦闘姿を眺めていた。
「終わりました」
櫛を壊された怒りは怖い。刺客は完全にのびてしまっていた。
「ごめんなさい。せっかく…」
「いいんだよ」ごそごそと懐を探り、「代わりに町屋の利子ちゃんにこれをあげよう」と、かんざしを差し出した。
「これなら町屋の利子ちゃんがつけられるよ。しかも隠し武器付きで、狼藉者もやっつけられる」
「あ、ありがとうございます。大切にします!」
二人は乳母らを送り届けてから帰路についた。
「ねぇ、もう一度半助って呼んでみてよ」
「呼べません」
「え〜!」
「姫御世は終わりです。帰りましょう、土井先生」
「あ〜あ」

忍術学園に着くと、乱太郎、きり丸しんべえが駆け寄ってきた。
「大変です〜 今度の件が山田先生にばれて、何で私を連れていかなかったかと怒ってるんです」
「父上が?」
「私の方がうまく女装ができるのにって騒いでて…」
「そうですか。では私は退散しますので、後は土井先生、伝子さんの相手をお願いします」
「おい、そりゃないよ」
「こら〜利吉待て〜」
「やば、では捕まらない内に」
怒る伝蔵と取り押さえる半助を後にして、利吉は塀を飛び越て帰って行った。
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