留伊

□pink or orange?
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「ね〜仙蔵。 お願い!」
威勢良く仙蔵の部屋のドアを開け、薄い桜色の女物の小袖を引っ下げた伊作が入ってきた。

「何だ?伊作」

「今から忍務に行かないといけなくて忙いでるの! 化粧して!」

「留に頼めば良いではないか」

「留探したけどいないんだもん
僕がすると下手だって文句つけるじゃない。 なんとかして!」

伊作が自分で化粧すると、適当に塗りたくるので、ともすると素顔のかわいらしささえなくなってしまうのだ。

「しょうがないなぁ…

でも化粧以前に着付からしてまずいぞ」

「えっ?」

「ほら、襟の併せが違う」

「あ、本当だ」

「脱げ」

「…え、あ、うん…」

「早く。 急いでるんだろ。 もたもたすんな!
襦袢も違うから全部だぞ」

そのとき仙蔵の部屋の扉が開き、留三郎が顔を出した。

「伊作、俺を探してたって?」

脱がした伊作の襦袢を持つ仙蔵と、女装用に下着さえつけていない伊作が振りかえった。

「…な、何してんだお前ら!」

「お前らとは失礼な。 俺は伊作に頼まれてだな」

「ちょっと仙蔵! 部分的な説明するのやめてよ!
留が誤解するじゃない!

これはねっ。 忍務に行くのっ!
化粧してもらおうとして留を探してたんだけどいないんだもん。
だから仙蔵にお願いして…」

「…お前、化粧下手くそだもんな」

留三郎は吹き出した。焦って一生懸命説明する伊作の様子がかわいらしかった。

「わかってくれた?」

「わかったから着物、着ろよ」
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