留伊

□なごり雪〜留三郎編
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なんとかしよう。もう少しで卒業だ。
留三郎は焦っていた。
そして覚悟を決めていた。
バレンタインデーの今晩こそ、伊作に思いを伝えるぞ。

食事も入浴も済ませ、自室でくつろぐ時間。衝立の向こうの伊作はタオルで髪を乾かしている。

「伊作、話しがあるんだけど…」
「何?」
「え〜っと…」

「何?僕まずいことした? こないだ直しかけの棚壊しちゃって怒ってる?」
「いや、そーじゃなくて…」

「じゃあ、取ってあったお菓子食べちゃった事?」
「…そんなんでいちいち怒るかよ…」

俺は心臓がバクバクするのを抑え、呼吸を整えた。

「あの、俺さ、ずっとお前のこと…」

微妙な空気に勘付き、伊作はやばい、きたか、という表情をしている。

肝心なところを言おうとしたちょうどその時、ばたん!と扉が開き、
「今晩泊めてくれ!」
と、仙蔵が入ってきた。

「仙蔵!いらっしゃい!」
助かった!という伊作の心の声が聞こえた。

「…何だよ!」
不機嫌に俺は言う。
「酒持って来たぞ〜」
仙蔵は人の話しを全然聞いていない。

結局、その晩は仙蔵に邪魔され、何も言えなかった。

「留、チョコいっぱい貰っただろ?」
と、仙蔵が隠してあるチョコを検挙する。
「いや、別に…」
「すごーい、いっぱいある」
「留守の間に小松田さんが受け取ったから、俺宛てじゃないのも混じってるかもしれないぜ。覚えてない名前もあるし」


「伊作は?」
「僕だってあるよ。ほらくの一教室から」
「それは皆貰ってるんだよ!」

「じゃあこれ。山本シナ先生の」
「すげー。シナ先生には貰ったことない。
さすがセンスいいなー。人気ショコラティエのだ」

「この大量の高級チョコは?」
「あ、雑渡昆奈門さんから。みんなでどうぞって」

「何だと!まだあいつうろついてるのか?!」
つい景色ばむ。
「あからさまな将を射んとせば、だな」
と、仙蔵。

「この手作りチョコは?」
「鉢屋」
「絶対食うなよ!何の薬物が入ってるかわからん」

「こっちの一見普通なチョコは?」
「…新野先生」

「ええええっっ!!」
「…どういう意味なんだろう…」
「ははっ。きっと義理だよ」

「ははははは」
かわいた笑いが部屋に響いた。

相変わらずのライバルの大さと多様さにため息が出た。
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