文三木、文仙、綾三木
□鳥
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−静かな夜、時に触れる同室者の唇−
この関係に名など無かった。
−愛してる−そんな甘い囁きがあるわけではない
情愛と呼ぶには冷たくて、
戯れと呼ぶには熱かった。
そして朝には、何事もなかったように普通の日々がはじまる。
それが、全て−
−それで、よかった。
ある日、仙蔵が作法委員会の部屋で読書をしていると、めずらしい来訪者があった。
「立花先輩、失礼します」
「入れ」
障子を開けて姿を現したのは、会計委員の田村三木ヱ門だった。
三木は下座にすわると、居ずまいをなおした。
「何だ?田村。
予算委員会の時期でもないのにめずらしいな」
「今日の用件は会計委員会のことではありません」
「では何だ?」
「会計委員会の用件ではないと言っても、うちの委員長のことなのですが…」
「文次郎の?」
「はい」
三木はその美しい唇から静かに言った。
「立花先輩と潮江先輩はどのようなご関係で?」
まさか文次郎と自分の曖昧な関係を三木が知る筈はない。しかし、仙蔵は内心の動揺を悟られないよう、静かに言った。
「単なる級友だが」
そのあと、三木の口から出てきた言葉は仙蔵を驚かすのに十分だった。
「では、私が潮江先輩をいただいても構いませんね?」
三木の微笑みはどこか色香があった。
仙蔵は平静を崩さずに、短く答えた。
「勝手にしろ」
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