鉢伊、鉢雷
□風
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俺達は、あまりに近くに居すぎて、もう、相手を傷つけることしかできなくて…
こんなことがしたい訳じゃないのに…
もう雷蔵を傷つけたくないのに…
俺は決心する。
雷蔵のために、雷蔵の側から離れようと。
風のつよい散歩道
風が吹くたびに草が、木々が揺れる。
「ねぇ、雷蔵」
「何?」
「…俺達さ…」
強い突風が吹き、俺の声を掻き消す。
「聞こえない…」
風はすぐ止んだ。
「ごめん、えっと俺達さ…」
(別れよう)
また突風が吹き、俺の声を掻き消した。
「聞こえないよ」
「雷蔵、まさかお前…」
(風が使えるのか?…)
背中を向け先を歩いていた雷蔵が振り返った。
「これ以上僕が聞きたくないことを口にするのなら、その口を塞ぐよ」
雷蔵はクナイを俺の唇にあてた。綺麗に磨かれたクナイは薄皮に一筋の傷を付ける。
そして、俺の口はクナイではなく、雷蔵の唇で塞がれ、絡めた舌から鉄のような血の味がする。
「雷蔵、お前って奴は…」
ああ、また引き戻されてしまう…
ずっとこのままなのだろうか…
風が二人の屍を塵に変えるまで…
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