土井利

□カメ子が行く!
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ある日利吉はしんべえの父の福富屋に呼び出された。

「利吉さん、わざわざすみませんでしたね」
「いえ、いつもお世話になっている福富屋さんの頼みであれば伺わないわけに行きません。 それで今日はどうなさったのですか」

「ほかでもないカメ子のことなんですけど」
「カメ子ちゃんですか?しんべえ君の妹の」
「そう、カメ子が堺の港まで使いに行っているのですけど、今度は利吉さんに護衛をお願いしたいと言ってまして」

「護衛なら、いつも弥次郎さんが一緒に行っておられますよね。何かいつもより危険なことでもあるんですか?」
「いえ、そういうわけでなくて、ただどうしても利吉さんがいいとわがままを言ってまして。どうやら利吉さんのことが好きらしくて。わしはあの子には弱くてね〜 カメ子のわがままを聞いてやっては貰えませんか?」
「そうですか、そんなことでよろしければ、私は構いませんよ」

そんな訳でカメ子に付き添って堺まで行くことになった。兄のしんべえに似ずカメ子はとても気が付くしっかり者で、5才とは思えないほどだった。

「利吉さん、本日はよろしくお願いします」
「こちらこそよろしく。じゃあカメ子ちゃん行きましょうか」
「はい

堺への旅路は何事もなく順調だった。カメ子推薦の団子屋に立ち寄り、浜辺できれいなハマナスの花を見つけてカメ子の髪に飾ってやった。
無邪気に楽しむカメ子は年相応にかわいらしかった。
堺までは途中からは船に乗る。気持ちの良い順風を受けて船は進む。

「利吉さん、お伺いしてもよろしいですか」
「何ですか?カメ子ちゃん」
「どなたかお好きな方はいらっしゃいますの?」

「な、なんですか、カメ子ちゃんいきなり」
「カメ子は利吉さんが好きなんですの。お嫁さんにしていただけませんか?」

うーん、困った… かしこいカメ子ちゃんのことだから、あまりいい加減なことを言っても、徒らに傷つけてしまうかもしれない、と利吉は思った。

「えーっと、カメ子ちゃん、あのね… 実はお付き合いしている人がいるんだ」
「…本当ですの?」
「うん」
「カメ子も知ってる方ですの?」
「いや〜、知ってるかもしれないし、知らないかもしれないけど…
わ〜!カメ子ちゃん泣かないで!」

「…どんな方ですの?」
「どんなって… うーん、皆から慕われていて、とても尊敬しているよ」
「…そうですか、わかりました。カメ子は諦めます」

カメ子は少しだけ涙したが、すぐに明るさを取り戻し、残りの旅呈をこなしていった。
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