土井利

□花冷え
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春、月のない晩。咲きはじめた桜を風がゆらす。
彼とはじめて出会ったのはこんな季節だった。
年には不似合いなほど強くて、そして美しくて、とても鮮烈な印象だったのを覚えている。
満開の桜を見ると彼のことを思い出す。

いつもの教務が終了したあと、学園長室へ集合がかかった。私と山田先生、戸部先生、野村先生がが呼び出された。
忍術学園に仕事の救援の依頼があったということだ。
ある城が大規模な戦に備えているのを阻止する。大きな仕事だ。

「ところで土井先生は利吉君には会っことがありますか」
二年の担任の野村先生から聞かれた。
「いえ」
依頼した忍者のことらしい…
「面白い子ですよ」

あの頃はまだ忍術学園に教師として勤めるようになったばかりで、新しい人間関係に慣れるので精一杯だった。
何が面白いのかそれ以上聞くこともなく、出立した。

「先生方、突然のお願いで、どうも申し訳ありません」
依頼主をみて、驚いた。

月のない晩のこと、はっきりとは見えないが、透る声、すらりとした体格、まだずいぶん若く見えた。

「この図面をごらん下さい」
細部まで描かれた城の図面だ。
「今日の目的は備蓄されている武器を破壊し、城の戦力を削ぐことです。
陽動で兵力を引き付ける部隊と、潜伏して武器庫を破壊する部隊に分かれていただきます。
ここに抜け道がありますから、退路は安全です。」

的確な指示、綿密な計画、忍術学園の熟練の教師達がこの若者の指示を黙って聞いている。

「では戸部先生と山田先生は陽動部隊についてください。野村先生と、えっと、土井先生は武器庫をお願いします。」

まだ名乗ってもいないのに、初めて会う人間から名前を呼ばれて、半助は少し驚いた。
しかし、突入前の緊迫した空気のなか、誰も余分なことは口にしなかった。

「私は皆様に混乱させていただいている間に、城主の文書庫にある密書を取りに行かせて貰います。」
これほどの規模の城の城主の領域、危険な仕事だ。

「では、よろしくお願いします。」
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