土井利

□山田利吉、5才
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ある、うららかな午後、教員室で土井半助と山田利吉は平和にお茶を飲んでいた。

「全くもう、学園長先生の思いつきにはまいったよ。授業が全然すすまなくてさ」
「まぁ、皆個性的でそれぞれ興味がある事を学んでるからいいんじゃないですか」
「そういってもね〜」

たわいもない嘆きをこぼしながら半助はお茶をすすった。

「そうだ、利吉君って子供の頃どんな子供だったの?」
「どんなって、…普通の子供ですよ。」

その時、教員室の前の廊下を抜き足指し足で歩く気配がした。

ばたんっ

庄子を開けるのと、手裏剣を投げるのは同時。 手裏剣は音をたてて壁に刺さった。

「きり丸!どこに行くんだ!明日テストだろう!」
「…へへ、利吉さん来てたんですかぁ」
「話しをそらすんじゃない」

きり丸は後ろ手に何かを持っている。

「おい!後ろに持っているのは何だ?」
「へへっ これっすかぁ?壷です。」
「それは見れば分かる。」
「望みが叶う不思議な壷らしいですよ」
「で、何でそんな壷を持って、歩いているんだ?」
「学園長先生にアルバイト代って言って貰ったんっすけど、物じゃどうしようもないんで質屋に売りに行こうかと…」
「お前、明日テストだろうが!」
こんな毎度のやりとりを聞いて、利吉が笑い出した。
きり丸はむっとして、利吉に言った。
「そんなにばかにして笑わなくてもいいじゃないですか!だいたい利吉さんはどんな子供だったんですか!」
「あ、それは私も見たい」

いきなり話しを自分に振られて戸惑っていると、どこからともなくアラジンの魔法のランプよろしく怪しい雲があらわれて、利吉を包みこんだ。

そして雲が晴れると、
こ、これは… 色素の薄い髪色、きりりとした目元、ご近所の良い子ではなくて、紛れも無い子供の頃の利吉君。
「先生、本当に願いが叶っちゃいましたね…」
「ああ」
一応聞いてみることにする。
「君、お名前は?」
「山田利吉」
「いくつ?」
「5才」
本物だ〜!
「…かわいい」
「先生いたずらしちゃだめですよ」
「するか!」
なになに5才の利吉さんだって?!
騒ぎを聞きつけて他のは組の子が集まってきた。
「本当だ〜利吉さんだ〜」
「ねぇねぇ、お父さんの名前は?」
「おなかすいてない?」
「ナメクジすき?」
矢継ぎ早に質問が飛びかう。
「父上は山田伝蔵。おなかはすいてない。ナメクジは嫌いだ」
「おお〜」
次々と質問に答えていく。
子供の頃から律儀だ。

「きり丸、ちゃんと元に戻るんだろうな」
「大丈夫だと思うよ。一次的なものだって学園長先生が言ってたよ」

6年生もやってきた。
「かわいい…。ほっぺとか…」と、仙蔵。
「仙蔵、目が輝いてるぞ」と、留三郎。
「かわい〜。留三郎が5才のときは僕と結婚するって言ってたんだよね〜」と、伊作。
「ええええっ」と、過剰に反応する文次郎。
「性別もわからん馬鹿だったんだな」と、つぶやく長次。


今度はくの一教室からも人が集まってきた。
「きゃ〜!かわいい〜」
「おねぇさんが遊んであげる〜」
「僕はもう5才なんだ!女となんか遊べるか!」
一同ぽか〜んとした後、
「きゃ〜!! かわい〜!」
さらに騒ぎが大きくなった。

「何故ここにはこんなに子供がいるのだ?」と、5才の利吉。
「学校だからだよ」と、きり丸。
「そうだね、利吉君は一人っ子だから、こんなに子供がいっぱいいるのには慣れてないよね」と、土井先生。

「学校?」
「そうだよ。忍術学園。忍者になる勉強してるんだ」と、しんべえ
「忍者?僕の父上も忍者だ!」
「僕達、山田先生に忍術を教えて貰ってるんだよ」と、乱太郎
「こら、乱太郎。あんまり言うと混乱するからやめなさい」と、半助。

「じゃあ、皆忍術を習っているのだな?
では、一太刀手合わせをお願いします」と、5才の利吉はまっすぐと、半助に言い放った。

「土井先生、ご指名で〜す」と、きり丸。
「私が!?」

18才の利吉はもちろんこんな事は言わない。無駄に剣を交えることはしないし、相手が半助ならなおさらだ。それは半助も同じこと。利吉と剣を交えたくはない。
「なんで私?」
「皆はまだ修行中でしょう。ちゃんとした先生と試合してみたい」

5才の利吉は習いはじめたばかりの剣が楽しくて、上達したいという純粋な気持ちでいっぱいなのだ。
「先生、よしって言ってあげないと5才の利吉さんかわいそうですよ」
5才の利吉はキラキラと光る目でまっすぐと見つめている。
「…わかったよ」
まわりに押されて、しぶしぶと了承した。

「では私が判定をつとめよう」
戸部先生までやってきた。
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