土井利

□京扇子
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彼の任務には危険なものが多い。 比較的安全な諜報活動だって、敵に見つかれば捕らえられるかもしれないし、直接戦場に立ち、刃をまじえるときもある。それに、彼に懸想する輩だって多いのだ。

「大丈夫です。貴方以外は近寄らせませんから」

彼は大丈夫だから心配しないでという。もともと仕事は原則口外しないのに加え、私の心配症が欝陶しいのか、最近はさらに何も言わなくなった。
だから、噂で今回の依頼者を聞いて一抹の不安がよぎったのだ。
京の公家…奴は美童好きで小姓をたくさんはべらせているし、かねてから利吉君を見る目が怪しい。何も起こらなければいいけど…



だいたい先生は私を子供扱いしているし、信用していない。 常に忍びとしては修業が必要だが、たいていの仕事は一通り以上の成果を上げている。 それに困った奴がいることは事実だが、寄せつけない自信はある。
任務であればしょうがない。重要な情報を得るためとか、敵を寝返らせるためとか。ただ自分がただの色恋の対象にされるのは我慢がならない。隙さえ見せなければ付け入られることはないのだ。
だから、要らない心配をかけないよう、仕事のことは言わない。とくに今回の依頼主のことは。


屋敷に行くと相変わらず十代半ばぐらいまでの小姓がいっぱいいるのに呆れる。こんな相手でもちゃんと、いままで何もなく大丈夫だった。
近寄ったり変なこというと殺すぞオーラを出してるからね。
それに、今日は依頼内容の終了報告と報酬を貰えばおしまい。

小姓の一人にいつもとは違う部屋に通される。
「宮がお礼に馳走を賜りたいそうで…」
「いえ、私は遠慮いたします」
「お願いします。私が宮に怒られますので、どうぞお通り下さい」

しょうがないなぁ、と奥の部屋に入ると、人払いがされており、人の気配がない。下座で待っていると、宮があらわれた。

「この度の仕事も見事であった」
「ありがとうございます」
今回の仕事の報酬は和紙に包まれ、雅な扇子を広げた上に置かれて下賜された。包みを懐に入れ、作法通り、扇子をたたんで、宮に返す。

「今日は、舶来の酒と馳走を用意した。褒美として召し上がられよ」
「勿体ないことでございます」
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