Halloween Yard (main)
□第2話 New Visiter
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今日も、早朝からキッチンに火が入り、厨房係が朝食の準備に取りかかっていた。
本日の朝食は、フレンチトースト。
牛乳は使わず、たっぷりの卵と砂糖の液にフランスパンのバゲットを輪切りにしたものを一晩浸してバターで焼く。
甘さ控えめのフレンチトーストに、丁寧に泡立てた生クリームが品よく添えられている。
バターと卵の丸みを帯びた香ばしい香りは、朝から乗組員の食欲を掻き立てるには十分だった。
食べることは活力の基本。
MAZICAWの任務は朝食をしっかりとることから始まるのだ。
だから皆、食事の時間には遅れずにやってくる。
食堂のテーブルには、フレンチトーストのほかに3種のハーブ入りサラダ、それに自家製ソーセージが並ぶ。
これは、最近の朝食の定番だ。
サラダは馬車の屋上菜園から、ソーセージは狩猟班が野生化した豚を狩ってきたときに、大量に仕込んだものである。
゛キンキンキーン゛
高く澄んだ金属音が響くと、それまで賑わっていた食堂がしんと静まり返った。
「皆、そろっているな。」
艦長のテンダーが低いが柔らかい声で予定外の空席がないことを確認する。
テンダーは青い髪に金色の瞳をした男性だ。
三十代後半に見えるが、その実、百年以上の歳月を生きている。
Halloween Yard では見た目と実の年齢が比例しないことなどよくあることだ。
食堂に集まったクルーの見た目上の年齢も様々だが、実の年齢はそれ以上に幅があるに違いなかった。
その誰もがMAZICAWのロゴが入った似たようなデザインのジャケットを着用している。
別に制服でも着用義務があるわけでもないが、いつのまにか慣例になってしまったのだ。
「食事の前に、仲間と集える幸せと、この恵に感謝の黙祷を。」
艦長の号令でクルーは皆、目を閉じた。
ある者は合掌し、ある者は頭を垂れ、それぞれが思い思いに感謝を捧げる。
「それでは、いただこう。サンチ・ヨーバス!」
「サンチ・ヨーバス!」
食堂は話声と食器の触れあう音であっという間に賑やかになった。