Halloween Yard (main)

□番外短編 「予感」(2013.8.30up)
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MAZICAWの談話室には小さな暖炉の脇に長椅子がある。
最近仲間入りしたジェラードはこの長椅子がお気に入りで、週に何度かは自室で寝ずにそこで夜を過ごしている。
夜中でも出入りのある部屋だから、落ち着かないのではないかと思いきや、彼は一度寝ると多少のことでは目を覚まさないのだと次第にわかってきた。
だから、ここで彼が寝ていても誰も気を遣わない。
どうしてこんなところで寝ているのかと聞いたら、彼はいたずらっぽい笑顔で言った。
「そりゃ、一人で寝るのが寂しいからさ。」
きっと冗談だ。
本当の理由はなにかしら。
ジェンなら知っているかもしれない。
「なんか、部屋で一人だと寂しいんだって。」
彼女が真面目に答えてくれた。
「寂しい?ジェラードが?」
信じられなかったけれど、ジェンが嘘をついたりしないのはわかってる。
だから、バードックにも聞いてみた。
「寂しいからだと聞いたが。案外ガキっぽいところのある男だ。」
本当なのね…。

ジェラードは時々、屋上の庭園でどこか遠くの空を見ている。
前の世界のことを考えているのだとなんとなくわかる。
彼の寂しさは失ったもののせいかもしれない。
陽に透けるようなとても綺麗な横顔。
こうしているときの彼は、どこかに消えてしまいそうなくらい透明に見える。
でも、私を見つけたら、いつもの彼に戻って笑顔を向けてくれるのだろう。
とっても強い人だとわかっているのに、貴方を見ていると、ふいに消えていなくなってしまいそうで不安になる。
「レア、どうかしたか?」
ほら、振り返ったのはいつもの彼だ。もう確かな存在を感じる。
「貴方がずっと、ここに居てくれないかしらって思っていたところよ。」
「俺には他に行くあてはないんだけどなぁ。」
そう言って、なぜか困ったように笑った。

予感がある。
貴方にも私にも。
それは、遠くない未来に別れが訪れる予感。
どうかそれが、幸せにつながる別れでありますように。

−了−

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