Halloween Yard (main)

□第1話 Lost Spring
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Halloween Yardの荒野には、いつの時代のものかも定かでない古い石畳の道がいくつも走っている。

そのうち、南北を真っ直ぐ貫いている街道を、漆黒の馬車がゆっくりと北上していた。

桁外れに巨大な馬車である。

黒光りする三階建ての要塞を小山程もあろうかという六頭の巨馬たたちに牽かせている。


それはもう馬車というよりむしろ、戦車に類型化されるにふさわしいほどの威圧感であった。


黒い要塞の基礎部分についた左右三輪ずつの大車輪。
それらが巨馬たちの力強い牽引に淀みなく回転し、
一回転する毎に金色に光る古代文字を空中に放っている。

御者の姿はなく、代わりに要塞正面の二階部分が扁平な円盤状況に張り出していて、
馬たちに指示を与えられる仕組みになっていた。

馬の蹄鉄にも車輪と同じような仕掛けがあり、歩む毎に金の古代文字を放ってゆく。
空気に溶けゆく文字の羅列は招かれざる客を寄せ付けないための呪(まじな)いであった。


この異様を呈した馬車の銘を「MAZICA W(マジカフォース)」という。

過去三度にわたり作り直され、現在四代目の車体である。


クルーは、総勢三十名ほど。

そして、全員が「Guest (ゲスト)」と呼ばれる異世界出身のものたちであった。

Halloween Yardは気まぐれに異なる世界と繋がることがある。
そして、そこからあらゆるものを招き寄せる。
生き物、物質、果てはある土地をまるまるといったこともある。

「Guest 」とは、そうやって他の世界からこの世界に呼び込まれたものたちである。

一度この世界に招かれたものは、二度と元の世界に帰還することはない。

MAZICAWは帰る場所がないものの集まりでもあった。

彼らはMAZICAWで移動生活をしながら、各地の調査を行い、情報提供を生業として暮らしている。
また、移動ついでに交易も積極的に行う。

Halloween Yard には異世界から転界してきたものの含め、生態の明かになっていない多くの生き物が棲息しており、
人々が暮らす安全圏は少ない。

それ故に、遠く離れた土地の間では、交流が途絶えがちであったし、物流は尚更だった。


Halloween Yard のそうした環境が、MAZICAW の生業を成立させているという訳だ。


さて、MAZICAW が走る先、北に数十キロ地点には、ワイルドベリーという安全地帯がある。

春になると、多くの果実が実る土地で、町や村も多い。
収穫した果実で作るコンフィチュールは各地に運ばれる特産品にもなっていた。

ところが、今年は、この特産品の出荷が随分と遅れているという。

異常気象によるものだとの噂が広まり、MAZICAWに交易のギルドから状況確認の依頼がかかっていた。

あいにく、他の地方への調査の依頼と重なり、副艦長を含む数名の乗組員調査員を欠いての仕事である。

現在、艦が向かっているのは、ワイルドベリー地方で最も大きい集落を形成する中央村であった。
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