Laboratory (another)

□【ぬら孫】強さのかたち(鴆 夜昼若 遠野勢)
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リクオが学校から帰ると、既に遠野からの客人たちは客間でくつろいでいた。
「みんな早かったね。ごめんね、待たせちゃって」
一通り挨拶の言葉を交わしあうと、雨造が思い出したように問うた。「そういえばさ、あの血の気の多い鳥の兄ちゃんは来てないのか?
雨造は何故だか楽しそうだ。男姿の淡島がチラリとイタクを見る。
「鴆君?うん、今はちょっと具合がよくなくて…明日の総会にも来れないみたい。」
「ふうん、あいつが病弱だってのは本当だったんだな。」
淡島が意外そうな顔をすれば、雨造も頷く。
「京都の時はそんなふうには見えなかったけどなぁ。イタクなんていきなり怒鳴られたしな。うへへ」
リクオはちょっと複雑な顔になる。確かに、鴆はあの性格だし、虚弱さなんて微塵も感じさせない振る舞いをする青年だ。
だが、実際には一年の半分近くは臥せっている程、ひどく体が弱い。
総会には多少の無理をしても出てくる鴆が、委任状をよこすということは、今はかなり体調を崩しているのだろう。
「うーん、心配だな?だよな?イタク?」
雨造がイタクの顔を覗き込んだ。
先ほどから、鴆の話で雨造も淡島も何故だかイタクをかまう「もしかして、イタクは鴆君に会いたかった?」
リクオは言葉も表情も少ないイタクの心情を量りかねて聞いた。
イタクはからかうような視線を送ってくる雨造と淡島をひと睨みした。
「遠野に伝わる薬酒を持ってきた。一口飲めば病を払い体を強くする。」
「イタクは門外不出のこの酒を頭に頼み込んで持ってきたんだぜ。遠野にとっても貴重な酒なんだ。」
淡島が補足する。
「あの男には宝船での借りがあるからな。」
「そっか。イタク、ありがとう!」
リクオがパッと明るい笑顔を見せる。素直さは昼も夜も変わらない。
「お前に渡しておく。あいつがこっちに来たときに渡してくれ。」
リクオはすぐにでも鴆に飲ませてやりたいと思いながら、イタクから油紙にくるまれた小さな竹筒を受け取った。
(鴆が来るのを待つ必要はねぇ。)
リクオの頭の中に夜の声が響いた。
気付けはもう日が暮れかかっている。
リクオはその姿を変貌させた。
途端に畏の気配が部屋を満たす。
「今から行くぜ。」
「行くって…?」
リクオと同時に女姿になった淡島がキョトンとした。
「鴆のところに決まっている。見舞いだ。イタク、これはお前が直接渡せ。」
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