Laboratory (another)

□【ぬら孫】それも闘い(鴆 夜若)
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案の定というべきか、ここ数日の寒さで、鴆は体調を崩していた。
「よぉ、熱出したって?」
鴆の不調は黒羽丸によって、すぐさま本家の知るところとなる。
すると、必ずと言っていい程、若頭が直々に様子を見にくるのだ。
鴆にはそれが少しいたたまれない。
「毎度心配かけてすまねぇな。大した事ねぇからよ。」
わざわざ来なくていいのに、と言外に含めたつもりだが、リクオには通じない。
「構わないから横になっていろ。」
「なに、大丈夫だ。」
床の上に半身を起こした鴆だが、言葉とは裏腹に、額にじっとりと汗をかいている。
「とっとと治して、来週の総会には行くからよ。」

「…。」
その言葉にリクオがスッと目を細めた。

「鴆…。」
畏れの気配を滲ませた秀麗な顔には僅かな苛立ちが浮かんでいる。
「次の総会には来るな。」
リクオは言い捨てて立ち上がった。
「何?!」
「心意気は買うが、不用意に命を縮めるようなまねは許さねえぜ。」
しばしの睨み合いの後、鴆がため息をついて折れた。
「わかったよ。我ながら情けねぇなぁ。」
鴆の視線が布団に落ちた。
いつもの覇気が影をひそめると、途端に生来の儚さが浮き彫りになる。
養生に養生を重ねたとて、鴆の短命は避けられない。
元服を過ぎて以降は、次第に弱っていく…。
そういう宿命を背負った種族なのだ。
リクオは立ったまま、赤い瞳で鴆を見下ろした。また少し、痩せただろうか。


「情けなくはねぇさ。要は、気持ちの持ちようだ。
鴆ってのは生き続けることすら容易じゃねぇ。
そういう妖怪だろ?
だったら、生きること、それ自体がてめぇの闘いだと思え。」

年下の主が、珍しく自分を励ましているのだとわかって、沈んでいた鴆の表情に
自然とやわらかい笑みが浮かぶ。
「…そうだな。ありがとうよ、兄弟。」
「おう。養生しろよ。」
リクオは鴆が浮上したのを見届けると、声だけ残して闇に消えていった。

一人になった鴆は、細く開いた障子の隙間から夜空に浮かぶ月を見上げた。
そうだ、この命はリクオに捧げたものだ。
ならば、簡単に生をあきらめることは許されない。
鴆は、先ほどの主の言葉を胸の中で反芻する。
『リクオ、俺は生きるぜ。
 それが、俺の闘いだからな。』


(終)

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あとがき

だいぶ前に書いた話です。
鴆君の、体が弱いことをものともしない行動力と男気あふるるところが大好きです。
強気な彼でも病床にあるときは落ち込む気持ちはあるはず。
頭領の彼は下僕の前では弱音吐けないでしょうから、義兄弟の前くらい弱さを出して欲しい…
そして、夜様がそれを受け止めてほしいという願望話でした。

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