Laboratory (another)

□【SPN】CHEESE HAMBURGER
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町外れのカフェに入ったディーンはテーブルに陣取るとカスティエルを向かい側に座らせ、ウェイトレスにチーズバーガーとアイスコーヒーを2つずつ注文した。

ウェイトレスは客の青年が、連れの意見を全く聞かずに注文を決めたことに驚いたが、勝手に決められた側のサラリーマン風の男は、全く気にしていないようであった。
それどころか、彼はウェイトレスの存在にすら全く関心を払わず、酷く真剣な顔で、向かい合っている青年の緑色の瞳を、穴のあくほどじっと見つめたまま黙っている。

その様子を見たウェイトレスは、肩をすくめてそそくさとキッチンに戻って行った。

ディーンもしばらくは黙ってカスティエルを睨んでいたが、友人の口の重さを思い出して不機嫌な声を出した。
「キャス、いい加減隠さずに言えよ。」
「ディーン、このことはサムに知られたくないんだ。」
「ここにサムはいないだろ。」
「でも、知れば君がサムに話す。」
「サムには言わないと約束したら話すのか?」
カスティエルはしばしディーンの顔を見つめたまま黙っていたが、首を横に振った。
「なんだよ、俺が信用できないのか?」 ディーンが更に不機嫌に言い募った。
カスティエルは食い下がるディーンの不機嫌さに負けないよう、少し身を乗り出した。
「君はサムに関することなら何よりも優先させるだろう。君自身の命でさえ…。だから、私は話せないんだ。」

ディーンは鋭い目でカスティエルを睨んだが、図星を刺されてしまっては溜め息をついて引き下がるしかなかった。
一方、やや落胆したようなディーンの様子に、カスティエルは心に痛みを感じ、そんな自分に戸惑ってもいた。

目の前の青年は過酷な運命と闘う強靭な精神力を備えているが、時折、酷く繊細な一面を見せる事がある。
そんな時は彼の相反する内面が、淡く揺れる光のように不安定で目が離せない。
深く傷つけば、背負うものが大きいだけに、簡単に壊れてしまうかもしれないのだ。
アラステアの時のような事は二度とあってはならない…。そして、日常でも、不用意に彼を傷つけたくはなかった。

「なぁ、キャス。俺たちの関係は特別だろ?」
ディーンが先程とは打って変わって、優しい口調で言った。
「そうだな。」
キャスが頷く。

テーブルサイドには笑顔の凍りついたウェイトレスが2つのチーズバーガーとコーヒーを手に立っていた。
「お、お待たせ、しました。どうぞ、ごゆっくり…その…お気の済むまで…」
ウェイトレスはぎこちない態度で注文の品を置き、逃げるように去って行った。
ディーンは彼女が今の会話の意味を誤解したと察し、溜め息混じりに肩を落とす。
「何だ?」
カスティエルが首を傾げた。
「゛特別な関係゛ってのには色んな意味があるってことさ。」
「色々とは?」
「知らなくていい。」
ディーンはうんざり顔をしながらもチーズバーガーを頬張った。
本当は、カスティエルが神秘的なほど深い青色の瞳で、熱心に彼を見つめる様子もまた、誤解の種だったのだが、ディーンは真面目過ぎる天使の直視傾向に慣れきっていて、珍しくその可能性を考えなかった。

一方のカスティエルは、相変わらずディーンを見つめたまま動かない。

「おい、俺ばっかり見てないでそれ食えよ。」
「私に食事は必要ない。それより、何か言いかけていただろう?」
「話は後だ。まずは食え。天使様には必要なくてもジミーには要るんだよ。もっと器を大事に扱え。せめて、あんたくらいは…。頼むよ。」
そう訴えたディーンの表情に影が射す。
カスティエルはまた心に痛みを感じた。
『私はどうしたらいい?』
心の痛みは、天界が天使に戒める「感傷」に類するものだということを認識してはいた。
けれど、自身のそれは、「同志」に対するものより、親密で深い男の友情に変わっていることには気がついていなかった。
カスティエルは神に忠実であり続けたばかりに、自己の感情を理解する術をまだ知らずにいるのだ。
『私はどうしたらいい?』
繰り返し自問する。
このまま神を見つけられず、状況が更に悪くなれば、ミカエルの光臨を是とするしか道はなくなる。
しかし、凄まじい力を持ったミカエルを一度その身に降ろせば、ディーンは二度と自分を取り戻すことはできないだろう。

それでも、彼は最悪の事態を回避する為なら自分を犠牲にしても「yes」と言うはずだ…。

カスティエルの深い沈黙にディーンが小さく溜め息をついた。

「キャス、食事くらいでそんなに真剣に悩むなよ…。」
天使の思いをよそに、ディーンが勝手に苦笑する。
「まさか、食べ方がわからないとか言わないよな?」
その瞳が楽しげに細められた。
カスティエルは無言のままチーズバーガーにかぶりつき、複雑な思いと共に飲み込んだ。
「うまいだろ?」
ディーンが満足そうに笑う。
『神を探そう。諦めるのはまだ早い。』カスティエルは親友に微笑みを返して決意した。




【あとがき】

実はこれ、シーズン5を観る前に書いたので、本編で明かされたある事実と食い違ってます…いたたた。

本編ではちょっと三枚目な2人ですが、ディーンもカスティエルも、ものすごくハンサムな俳優さんが演じてるので、たまに見せる彼らの憂い顔などは絶品と思います。

お兄ちゃんは憂い通り越してよく泣いてますが…。
いい大人、しかも屈強な青年の涙なんて暑苦しい…と思ったら大間違い。
もんのすごく美しく泣きます。
恐るべし、ジェンセン!

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