Halloween Yard (main)

□第2話 New Visiter
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艦長の隣には彼の優秀な副官であるレアが座っていた。

見た目は十歳くらいの少女であるが、本来は二十代半ばの女性である。

数日前に立ち寄ったワイルドベリーの中央村で、人為的怪奇に巻き込まれ、肉体が若返っていた。

「ああ、レア殿のそのお姿は…。
花のように可憐ではあるが、何とか元に戻せる手段はないのだろうか。」

朝食の席で芝居がかった大袈裟な嘆きを発しているのは分析班の班長クライエ・フォン・ダンゲルだ 。

癖のない金髪を肩まで伸ばした碧眼の優男で、 二十代半ばくらいに見える。

その実、彼はHalloween Yard に転界してきた時の姿のまま二十年たっている。
MAZICAWでは古株だ。

いつも、カーキ色のスタジャンの下に 胸元にフリルをあしらった貴族的な白いシャツを着用している。
かなりチグハクな格好なのだが、誰も指摘はしない。

それは、彼がMAZICAWの古株であるということに遠慮があるせいではなかった。

彼の芝居がかった態度とその格好がマッチしているが故に、妙に納得してしまうからだ。

「ありがとう、クライエ。
私は大丈夫よ。
毎日通常よりかなり早い速度で成長しているみたいだから、いずれ元にもどるでしょう。

私よりもテリーヌを何とかしてあげたいわ。」

「あの、私は・・・身内の責任でもありますから。」

テリーヌと呼ばれたのは白髪の老女である。

慎ましやかに微笑む姿は、老いていても十分にチャーミングだ。

彼女はレアとは逆に肉体から若さを奪われていた。

本来は16歳の少女である。

彼女が暮らしていた中央村はコンフィチュールを特産として安定した生活を送っていた。
しかし、今、中央村は、人為的怪異、いわば一種の人災で壊滅状態になっている。

その人災を引き起こしたのは彼女の父親だった。

彼女は肉体をもとに戻す方法を探すためMAZICAWに搭乗している。

「テンダー殿、心優しき
二人の姫を救う手だてはないのだろうか。」

食事に手がつかない勢いのクライエに、テンダーは冷静に答えた。

「我々の力だけでは彼女らの体を元に戻すのは難しいだろうね。」

「なんと!」

「だが、何とかしてくれそうな人に心当たりはある。」

そこでテンダーはちらりとレアをに視線を送った。
レアが少し複雑な様子で微笑み、頷いた。

「なるほど、確かにあの方ならば。」

クライエがそれを見て、やや苦笑気味に納得する。

「ちょっと遠いが、ついでもあるからね。
これからそこへ向かう予定だ。
あの人なら、大概のことは対処してくれるだろう。」

「おお、さすがはテンダー殿。
テリーヌ殿も今はお辛いだろうが、私ができることがあれば何なりと言って下さい。
必ずお力になりますぞ。」

そしてクライエは時代が時代、場所が場所なら女性の心を鷲掴みにしたであろう優しい笑顔をテリーヌに向けた。

「姫の危機を救うのも騎士の勤めなれば!」

クライエは力強くうなずいた。

転界して20年経った今でも、前の世界で染み付いていた騎士道精神が暑苦しいほどに健在なのである。
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