記憶の渦

□09 遡る記憶(1)
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ジン「あー、と確かテルアだったか?」


テルア「……ええ。おはようございます、ジンさん」


ジン「おう。 早いな起きるの」


テルア「自分にとっては普通ですよ」



イゾウの部屋へと向かっていると、ジンが前からやって来た。

いつもなら軽く挨拶する程度なのに、今日は話しかけられた。
内容はただの世間話。
これといった、不自然な素振りは見当たらない……。

テルアは何が不満なのだろうか?


そしてそのまま何事もなく話を進めた後、テルアはジンと別れてイゾウの部屋へと向かっていった。



ジン「………」








テルア「起きて下さーいイゾウ隊長ー、朝ですよー」


イゾウ「………っん……おいテルア…、何でんな遠くにいる?」


テルア「懐に銃を忍ばせて寝るイゾウ隊長の方が自分は疑問です」


イゾウ「忍ばせて寝てる海賊なんざ、珍しくねぇだろ」


テルア「なら普通仲間は撃ちませんよ?」


イゾウ「まだ根に持ってんのかよ……」


テルア「いえいえ、持ってませんよ? ただ万が一に備えて遠く離れて「それを根に持ってるつーんだよ」」



イゾウの部屋へと到着し、イゾウを起こす事に成功(?)したテルア。

しかしテルアが今居るのはベッドから一番離れた所の部屋の隅。
…撃たれた経験があるらしい。
勿論それは外れ弾だったので当たってはいないが、それでもトラウマには十分なる。



イゾウ「それよりお前、また髪跳ねてんぞ」


テルア「好きで跳ねさせてはいませんよ。
…まぁ、いいじゃないですか。 髪は自分拘ってませんし」


イゾウ「耳飾りは拘ってるくせに……、ほら来い」


テルア「いえそれより船員たちが「早く来い」……やれやれ…」



イゾウに呼ばれ、鏡台の前に座らせられるテルア。
そしてイゾウはテルアの髪を丁寧に櫛でとかしはじめた。

男にしてはそこそこ長いテルアの髪。
髪には本当に拘りないのか、跳ねている髪は勿論、そのまま放っておくとどんどん伸びていく髪を切るのも、イゾウがやっているそうだ。


世話がかかる奴だと思いながら髪を整えていると、テルアが声を掛けてきた。



テルア「……イゾウ隊長。
まさかとは思いますが、船員たちを使って自分をここに呼びました?」


イゾウ「何故そう思う?」


テルア「ここ最近頼まれる事が多い上に、起こす度に髪を弄られますので」


イゾウ「………当たり、」


テルア「わー、わっるい顔ー」



イゾウの黒い笑みに思わず棒読みになる台詞を吐くテルア。
しかし今こうしているのは、嫌いではなかった。

…本当は、髪に拘りが無いなんて嘘。
薄々イゾウから呼んでくれているのにも、本当は気づいていた。
…でもその嘘で、この朝の時間は2人にとってはとても楽しい時間だった。


だからこの朝が毎日続けば……。

しかしその楽しい朝は、次の日もその次の日も…訪れることはなかった…ーー。
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