ぽん小説
□失恋ループ
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好きだとか、愛してるとか言って欲しかったわけじゃない。ただ、そばにいて欲しかっただけなのに。
「そんな女々しいこと、友達にだって言えないよ」
今にも泣き出しそうな顔をして彼女は呟いた。でも彼女は泣かない。彼女が失恋で泣いたところをみたことがない。
田舎には、若い人が溜まる場所なんて限られている。彼女とオレは街の中心にあるファストフード店の端っこで、30分前からコーラだけで粘っていた。何でもない日にカフェに行ってみたい、が彼女の口癖だ。コーヒー、飲めないくせに。
そんな彼女に関する些末なことを、オレは幾つも、幾つも知っている。
コーヒーが全然飲めないこと。
炭酸もあまり沢山は飲めないこと。
温かいミルクティが大好きなこと。
パンダが好きなこと。
集中すると口が半開きになること。
好きな人には、少し攻撃的になること。
好きな人がオレじゃないってこと。
まだまだ沢山知っている。知りすぎてストーカー呼ばわりされたこともある。ストーカーはさすがに酷い。無言の時間が続いた後、彼女がわざとらしくため息をついた。
「なんか言ってよ」
オレは黙っている。さっきからずっと。彼女は昔、救われたいと思
う人にじゃないと人は本当には救われない、と言ったことがある。救われたいのはオレじゃない。故に、何を言っても無駄だろう。
「パンダに会いたいな」
彼女が話題を変えた。ちょっとだけむくれている。少し、優越感。懐くようにして交友関係を作る彼女は、仲が良い人間ほど甘えが入る。
「じゃあ、連れてってあげようか?」
「本当に!?」
「いいよ」
今度は表情を変えてニコニコ。分かりやすい。子どもっぽい。可愛い。
そういえば、この間、大人っぽいって言われて喜んでたな。誰だ、そんなこと言ったのは。彼女は大人ぶった子どもだ。だから可愛いのに。
そいつは、彼女のこと何もわかってない。コーヒーのことだって、パンダのことだって、きっと何にも知らないに違いない。
「何時行こうか?」
「何時でもいい!」
「今から行っちゃう?」
パッと、彼女が顔を曇らせた。あぁごめん。今からバイトか。
「今からバイトなの」
「知ってる」
「なんで?」
「好きな人に会いに行くって顔に書いてある」
書いてない!と彼女は口を膨らませた。でも否定はしない限り、会えるは会えるのだろう。推測なのは、彼女からそこら辺のことをきちんと
聞いたことはないからだ。
聞きたくもない。彼女の口から他の男の話なんて。でも彼女の話から、メールから、様々なところから彼女の想う人の情報が手にはいる。
年上なこと。
甘いものが好きなこと。
タバコを吸うこと。
真面目に見えるけど実はそうじゃないこと。
ネコが大好きなこと。
しいたけが嫌いなこと。
彼女が、いること。
まだまだ知っている。知りすぎてストーカーなんじゃないかって彼女は言っていた。ストーカーは酷い。無言の時間が続いた後、彼女がわざとらしくため息をついた。
さっきとは違う甘いため息だった。
「なんか言ってよ」
彼女は黙っている。彼女は昔、救われたいと思う人にじゃないと人は本当には救われない、と言ったことがある。オレは彼女に救われたい。故に、オレが何を言っても無駄だろう。
「パンダ、もう少し暖かくなったら行こうな」
話題を変えてやる。自分がちょっとだけむくれているのがわかる。彼女が、うんと、頷いた。少しだけ、敗北感。懐くようにして交友関係を作る彼女は、仲が良い人間ほど甘えが入る。
でも、甘えられないとわかったとたんに彼女は大人びて、代わりに相手を甘えさせてくれる。
あぁ、そういえばこの間、大人っぽいって言われて喜んでたな。誰だ、そんなこと言ったのは。彼女は大人だった。自分よりずっと。
そいつは、彼女のこと何もわかってない。コーヒーのことだって、パンダのことだって、きっと何にも知らないに違いない。
でも、彼女はそいつのことが好きなのだ。そいつはオレが知らない大人びた彼女を知っているのだ。
「何時出ようか?」
「そろそろ行く」
「じゃあ行こうか」
外に出ると、夕焼けの時間帯なのに曇天の空が広がっていた。彼女はそのままバイトに行くという。駐車場で手を降って見送った。
好きだとか、愛してるとか言って欲しかったわけじゃない。ただ、そばにいて欲しかっただけなのに。
「そんな女々しいこと、友達にだって言えないよ」
今にも泣き出しそうな空を見上げて呟いた。でも雨は降らないだろう。オレが失恋したところで雨が降ったことなんて一度もないのだ。