でこ小説
□サニーデー
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ベランダの鉢植えに水をやっていると、後ろから軽い衝撃を受けた。もう起きたのか。まだ壁にかかった鳩時計は8時を少し回ったくらいだというのに。
「起きたか」
「ん」
天気が良い。最近の寒さが嘘のように今日は暖かく、水を与えた葉の上で、水滴がきらきらと輝いていた。成る程、この陽気に、まんまと誘われたわけだな。
「気持ちよさそうだね」
「何が」
「その葉っぱ」
顔だけ振り返ると、アーモンドナッツの目があった。まるで猫のようだ。昔、何時だったか、そんなことを思ったことがある。以降、俺はしゃがむ俺の背中にしがみついている男をネコと呼ぼうと決めた。
「むー」
ネコは夢との境で、もぞもぞと口を動かしている。このまま放っておけば、このまま寝てしまうんじゃないだろうか。腹に回された細く白い手を、べりっと引き剥がして体ごとネコと向き合う。ネコの頭がかくんと揺れた。
「ネコ」
「なぁに?」
「まだ眠いか?」
「んーお腹減った」
「…わかった」
天気が良く、暖かいといえども、季節はまだ冬だ。ベランダの硝子戸を引いて、炬燵の電気を着けた。ネコが待ってました、とばかりに炬燵布団に潜り込む。流石、ネコだ。