でこ小説

□過ぎる夏の日
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「いてて…と」
真っ黒な夜空。
世間が静まる中、反比例するようにきらびやかになる歓楽街。
今日も沢山の人が通り過ぎる大通りを、高級そうなスーツをまとった男が歩いていた。
「冷たいなー」
過ぎていく夏の涼しい風が雨で冷たくなっている。
傘も差さずに歩く男はホストだった。
「ついてなーい」
先日派手に喧嘩をした代償で、ホストの怪我は未だに治っていなかった。
医師には安静にしろと言われたが、ホストは連日外をほっつき回っている。
ちなみに本人の言い訳としては「用事があるからねぇ仕方ないよ」だ。
「今日はちゃんと用事があったんだよ?」
「…ホストくん?」
ホストがあははと暢気に笑っていると、突然後ろから声をかけられた。
「あれ?保育士さんだ」
ホストに声をかけたのは、いつもの黄色いエプロンをつけていない、傘を差した私服姿の保育士だった。

「珍しいね、保育士さんが私服なの」
「いつでも先生じゃね。たまには私用で来るのよ」
ずぶ濡れのホストを気遣って、保育士はホストを傘にいれてやった。
大の男、それも長身の二人がする相合い傘は狭い。
「どこいくの?送ってやんよ」
「もう行ってきた」
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