でこ小説

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朝日が空を染める時間。
世間の喧騒を遠くに聴きながら、歓楽街はだんだんと眠りにつく。
しかし、そんな眠りゆく歓楽街の片隅にある、木造建築の小さなぼろ屋は、夜があけるにつれ緊張感を増していった。
全てはそう、ぼろ屋の主である駄菓子屋のせいだ。
「………」
サラダの入った器を運んでいる学新は、駄菓子屋の様子にため息をついた。
「駄菓子屋さん。いい加減機嫌治して下さいよ」
「やだ」
ぼろ屋の表に面した店舗スペースの奥、駄菓子屋の住まいがある居間では、駄菓子屋が不機嫌なせいで無駄に緊張感が走っていた。
そのため一緒に居間にいる学新たちは、誰も食卓に登ったホカホカのカレーに手がつけられない。
「ねぇ駄菓子屋。お腹減ってないの?」
お嬢が、拗ねている駄菓子屋に優しく話しかける。
空腹の中、目の前でお預けを喰らっている状況にも関わらず、その苛立ちを一切感じさせない完璧な微笑み付きだ。
「…減ってないべ」
そう言う駄菓子屋のお腹はきゅうきゅうと小さな音をたてていた。
鳩時計のある壁に向かって体育座りをしていた駄菓子屋の体が揺れる。
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