箱の中の奇跡
□傷つけるほど引き裂かれ
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「好きだ」
その言葉が、本当はどれほど嬉しかったか。
・
あからさまにしまった。という顔をする郷田。
今まできっと何回も口をつぐんだ言葉なのだろう。
けれど俺は、ハッピーエンドな返事を返してやることはできなかった。
「生憎俺はお前のことを好まないんでね」
「同性だからか?」
「性別なんて大して気にしないさ。ただ、散々言ったろう?俺はお前が気に食わないと」
そんな悲しい顔をするなよ。
もともとそんな感情抱いちゃいけなかったんだよ。俺なんかに。
「もっと、お前は人を見る目をもったほうがいいよ」
そういって、俺は郷田に背を向け、逃げるように早足でその場から歩き去った
ふと後ろを振り向けば、そこに彼の姿はなかった。
辛いほどに好きだったのは俺の方だった。
ただ、なにもかもがちがかったんだ。
俺の前に映る郷田は太陽くらい眩しかった。
どうしてだろうね。
同じ番長を這っているというのに
その理由は自分が一番分かっているはずだった。
そもそも俺には"大切"という言葉がないのだろう。
すべて壊したくなる。
俺の目に映るもの全て。
お互いに同じ思いだからといって全てがハッピーエンドになるわけではないのだ。
いつ郷田を汚して、壊すかわからない。
ごめんね
いますぐにでも俺は、自分だって壊してしまいそうなんだ。
そんな奴とお前が一緒にいるなんてのは間違ってるんだよ。
「...ふ、」
苦し紛れに笑ってみれば、目から落ちる雨粒は止まらなかった。
そんなに傷つくのなら受け入れればよかったのに。
けれどそれで最後にシアワセになれるかと言われれば答はnoに決まっている。
心の中はもう引き裂かれ、さけずまれたようにぼろぼろだった
いつの間に雨が降ったのだろう。
辺りは水たまりだらけだった。
歯を食いしばり、次に郷田と会うときは笑っていたい。
そんな願いを込めて顔を上げれば、まっさきに目に写ったのは
「仙道」
そう、しっかりと、俺の名前を呼ぶ
郷田の笑顔だった。