歩みだした今

□まだ夢の中に
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最後に見た神童先輩は
怖いほどに、綺麗だった。

*

「大丈夫か。」

「あ、うん」
「どこがだよ。ボール足元から消えてんじゃねぇか」
「あ、ごめんね。えへへ...だめだね。」

あはは...なんて気の抜けた薄笑いを浮かべながらボールを拾いに行く天馬を俺は、ただ見つめていることしかできなかった。

「剣城」
「ん?」
「俺ね、まだ夢の中にいるんだ」
は?
松風が何を言っているのかおれはわからなかった

「隣にはね、いつも一緒にキャプテンが走ってくれてるんだよ。一緒に、頑張れって、試合になったらまた神のタクトみせてくれるっていったの。一緒に走っていってくれるって約束したんだよ。隣で「松風」
しっかりしろ。
そう言い放てば松風は俺の胸にしがみついた。
よほどショックだったのだろう。
松風の目は純血していて、しっかり眠れていないようだった。体は弱々しい感じが表面に出てきていて、以前の松風ではないようだった

「どうして。キャプテンは一緒に走ってるのに、パスが届かないんだ。俺のパスは、もうキャプテンに届かないんだ」

「今の雷門のキャプテンはお前だろう」
「それでも...!俺のキャプテンは神童先輩だけなんだ」

松風の声が震えた。
こいつの頭の中はあいつのことでいっぱいいっぱいだった。
けれど俺はそれでもこいつの中に入りたいとワガママを思うのだ。
「おちつけ」
けれどその方法が俺にはわからない。
どうすればこいつを助けられる。
俺にはわからなかった。
きっとこんなとき、神童ならどうするだろうか

怯える松風に、どんな言葉を伝えるだろうか。

「剣城。怖いんだ。」

怖いという松風を見て苦しく思いながら、
どうじに名前を呼ばれて心地よさを感じる自分が嫌になった。

ごめんな。


俺が今、松風にできることは
謝って、松風を抱き寄せることだけだった。

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