ぉりじ

□絶対主君
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『絶対君主制』。
くだらない話だが、うちの学校にはそういった制度がある。
生徒会・風紀委員よりも上の存在。
『帝王』と呼ばれる存在がいる。
『帝王』の言う事は絶対である。例え生徒会や風紀委員が黒だと言っても、『帝王』が白だと言えば白になる。
そいつの名前は神野端美人。読みにくい感じが並んでいるが、これで「こうのばたよしひと」と読む。
名前に似合わず図体はデカいが、名前負けはしていない。そう、つまり美人なのだ。彼を見た全ての男が同じ男として生まれたことを後悔するような、そんな容姿の持ち主である。
 『帝王』のその知能指数は計り知れないほど高く、全国模試などオール満点は当たり前。若干17という異例の年齢で複数の会社を動かしているなど、その才能は霞むことを知らない。
 誰をも惹きつけるカリスマ性を持ち、この学校においても彼に逆らおうとする人間などいない。本当に。
 …本当に?


 申し遅れたが自己紹介でもしておこう。
 七ノ宮一時、俺の名前も大概読みにくいが、これで「しちのみやひととき」と読む。愛称は言うまでもないな。いっとき、とかいちじ、だ。
 
 
「いちじ!!なぁなぁ聞いてーな。あんな、また帝王がな!!」
「まぁた帝王ネタかよ。いい加減飽きないのかねぇお前は」
「飽きひんて!!帝王やで?!」
「はいはい、そんで、どうしたよ?」
「せやった!あんな、帝王がまた生徒会の決議を拒否したらしいねん!」
「へーーーーーーーー」
「うっわ冷たっ!なんやのその気ぃのない返事!」


心底どうでもいい話だ。だってその決議超いらないもんだったし。一般生徒を生徒会室に連れ込むことの了承とか、どうでもいいから。
君主に逆らう奴なんかいないから、帝王からOKが出れば親衛隊にも制裁されずに…って思ったんだろうけど、そもそも生徒会室は作業するところであって一般生徒を連れ込むためのもんじゃねぇから。


「ホンマに、いちじは興味なさそうやなぁ…」
「そないなことあらへんよ?」
「って、うちの口調パクるのやめてぇな」
「ははっ、方言ってうつるんだよ」


マジで。
さってと、そろそろ君主様に会いに行くかなぁ。いい加減生徒会もリコールしてぇな…。被害届の数半端ねぇし。風紀委員が泣きそうなのは可哀そうだ。…可愛そうの間違い、かもな。
ガタリと席を立つと、驚いたように見られた。


「なしたん?」
「呼び出しされてたの思い出したわ」
「ついてったろか?」
「いらん」
「そか、なんかあったら連絡し?」
「さんきゅー」


軽く手を挙げて教室を出た。
最近はいろいろ危ないからな。どれもこれも最近生徒会室に入り浸ってる奴等のせいだけどなー。よっし決めた、やっぱリコールしよう。
理事長室バリに豪華な扉の前に立つ。可笑しいよなぁ。学校だぜ?こんなに設備がいいっておかしいだろ。つか理事側はなんでも学生に任せすぎだろ。少しは干渉しろよっての。ああでもそれはそれでめんどくせぇ…。
ぐるぐると考えてたらイライラしてきた。そもそもそんなに気の長い方じゃない。蹴破ってやろうと脚を構え、思い切り扉を蹴ってやる。


「ぐっ」
「ん?」


なんか余計なもんまで蹴ったくさいが、まぁいいか。
で、


「何してんだ、『帝王』」
「一時…」
「いーから離れろ、他人が来る」


蹴ったはずが足にくっついて離れないものがあった。もうお分かりかとは思うがもちろん我らが『帝王』様だ。
その帝王様を引きはがして中に入る。無駄にデカいイスに腰掛ければ、帝王様、神野端美人は俺の前に跪く。


「一時、あの」
「美人」


内側から見ても豪華な扉を見つめながら、話し出す前に口を開く。


 「そろそろ馬鹿どもを処分するぞ」


 口の端だけを持ち上げて微笑む。
 平穏に暮らしたい人間の為にも、害なすものを許すわけにはいかないだろう?


 「任せろ、俺の主人」


 片膝をついて俺の手を取り口づける。褒める意味も込めて髪を撫でてやれば、手を取られ頬を押し付けられた。


 「全ては貴方の為に」
 「…いい子だ」
 
 
 さて、彼に逆らおうとする人間はいるか?答えは否。
 ただ、帝王が逆らえない人間がいるだけ。それが俺ってだけの話。

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