白いキャンバスに描く

□欲しいから奪う、それだけ。
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良平くんと出会って、一週間ほど過ぎた。
この一週間、ほとんど良平くんと居た気がする。
林太郎はサッカー部が忙しいらしく、放課後はもちろん昼間も一緒にいられない事もあったからほぼ二人っきりだった。

良平くんは優しくて、僕はどんどん好きになっていった。
隣にいられる事はとても幸せだったけど、周りの人の視線が怖かった。振り払うようにスケッチブックに手を伸ばして気づいたことがある。


良平くんの絵が3枚とも消えていたんだ。


必死で探してみたけど見つからなくて落ち込んでる僕に、良平くんがまた描いてもいいと言ってくれた。
土曜日の今日は、その約束を果たす日。



「あの、ご、ごめんね?動いてもいいしっ…その、僕の事気にしないで…」
「…みつるの言うことなら聞く」
「え、と…ホント、ありがと…」



良平くんの言葉に甘えてベッドで楽な姿勢をとってもらうと、背もたれに寄りかかり僕を手招いた。
近づくとベッドに上げられてここで描いてと言われた。うう、近くて緊張する…
それに、どうしても日曜日の事を思い出してしまうのに…



「じゃ、じゃあ始める、ね。疲れたら、言って、くださ…い」
「みつる」
「な、なに?」
「前髪、上げて」
「え、え?」
「…この前みたいに…みつるの顔が見たい」
「ぼ、僕の顔なんか見ても、つまんない、よ」
「いいから」



鋭い目で言われたら何も言い返せなくて前髪をピンで止める。
僕なんかみても、面白くないのに…
良平くんは不快に思わないのかな……

ぐるぐる頭の中を回ったけど、せっかく良平くんが時間を割いてモデルをしてくれるのだからと頭を振って思考を飛ばした。


良平くんに視線を移せば高鳴る胸。
例えようもない興奮に身を焦がし、鉛筆を手に取れば自然と腕が動き出す。

僕の世界に二人きりとなって、見つめる。
想いを伝えるかのように、鉛筆を走らせた。



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