白いキャンバスに描く

□君と僕と
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滝川良平は恵まれた人間だった。
生まれたときから勝ち組と言っていいだろう。

彼は見目良く賢かった。大概の事はこなせたし、望んだものは与えられ不自由もしていなかった。
ただ一つ与えられていなかったもの、それは両親からの愛情だ。しかし賢かった彼はそれすらも割り切り、歳の離れた姉と兄と関わりながら育ってきたのである。

そんな男が愛したのは、ただ一人の地味で平凡な男だった。

良平自身でさえ理解していない。この焼けるような熱情を。



「みつる」



美術室のドアに寄りかかり、小さな背中に声をかける。
前より短くなった髪を揺らして、こちらに微笑んでくるからつられて良平も微笑む。
あの事件から満は少し髪を切った。前より見つめやすくなった瞳に、誰にも見せたくなかったという独占欲が湧き上がるが「少しでも隣に相応しいように」と本人から言われてしまえば無下にできなかった。
といっても、良平はそんなことを気になどしていなかったのだが。



「ごめんね。待たせちゃった」
「大丈夫」



2人の間に会話は少ない。
良平はもともと話す方ではないし、満も同じくだ。
しかし2人にとってはそれが心地よく、幸せなのだから何の問題もない。



「今日、俺の部屋?」
「行っても…いいの…?」
「もちろん」
「あ、ありがとう」



俯き頬を染める満を眩しいモノを見るような目で見つめる。
昔の良平からは想像がつかない人間になったというのはWの参謀ともいえる男、松崎の言葉だった。篠宮がそれを聞き爆笑したのは一部の人間だけの秘密である。



「何描いてたの」
「うんと…水彩なんだけど…。抽象画、かな?僕題名つけるのとか、苦手で…」
「…俺はみつるの絵、好き」



ふわりと頭を撫でれば、途端に赤くなる顔。
小さくありがとうとつぶやく唇に、キスをした。



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