その手が掴むもの…
□第4話
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「嘘だ!!そいつは嘘をついている!!」
…なんだよ、話始まって早々「嘘だ!!」って、ふざけんな
そう心の中で毒づいていれば物陰から何かの手とそれを持った傷だらけの男が出てきた。
「サトツさんが偽物?」
傷だらけの男は俺が本物の試験官だ!!と言い張っているがそうは思えないんだよね…
「こいつを見ろ!」
取り出したのはサトツさんそっくりの顔で死んでいると思われる手足の細い猿だった。なんでも人面猿という人に扮して言葉巧みに人間を獲物にする奴だそうだ。
男の言葉に受験生が困惑していた。
というか、あの猿…
「生きてるじゃん…」
ボソッと呟いたのと同時に俺の目の前を何かが通り過ぎた。
「…は?」
目の前を通り過ぎたのはトランプ、それは男とサトツさん、逆方向に向いて飛んで行った。
サトツさんはトランプを受け止めたが男は受け止めることが出来ずトランプが顔に深々と刺さってしまった。
「なるほどなるほど◆」
トランプを投げた本人、ヒソカがカードを捌きながら言った。
「これで決定◆そっちが本物だね◆」
「…」
あいつわざと俺の真ん前にトランプ投げたな…
ヒソカをチラッと見れば目が合ってしまった。
…なんてタイミングの悪い…
その後光の速さで目をそらしたのは言うまでもない。
死んでると思われていた猿もやはり生きていたが可哀相なことにトランプの餌食になってしまった。
死んだ猿や男は湿原に住む肉食鳥に喰われていた。自然の摂理とはいえ非常にえぐい物だ。
「私を偽物扱いして受験生を混乱させ何人か連れ去ろうとしたんでしょうなこうした命懸けの騙し合いが日夜行われているわけです、何人かは騙されかけて私を疑ったんじゃありませんか?」
レオリオがあからさまな笑いを浮かべてた。分かりやすい単純馬鹿だな。
「それでは参りましょうか、二次試験会場へ」
…またマラソンかよ!
「あぁぁ…髪がへばり付くー」
「お前の髪長いからな」
今はレオリオとクラピカと一緒にマラソンの後ろの方を走っていた。
「ユキ質問なのだが」
「ん?何だクラピカ?」
「あの人面猿が生きていることに気付いていたのか?」
「うん、普通に」
しれっと言えば二人はキョトンとしていた、何で?
「レオリオー、クラピカー、ユキー!キルアが前に来た方がいいってさー!」
「ドアホ!行けるならとっくにいっとるわい!!」
前方からゴンの声が聞こえた。霧が出て来たから見えないが…
「ゴンー、俺とクラピカがいるから安心してー!」
「なっ、おまっ、ユキ!!」
「だってレオリオ今丸腰じゃん、だから俺等が守ってあげる」
クラピカにねぇ、と話し掛ければそうだな、と頭を撫でてくれた。
「(普通にしていればただの少女なのにな)」
クラピカが考えていることなんて俺には分からなかった。
まぁまぁしばらくすると先頭集団から離れたのか珍獣達の餌食になる受験生が増えてきた。
そしてまた少し進んだ先からは数枚のトランプが飛んでくる。
「いってぇ!!!」
俺とクラピカはなんとか回避したもののレオリオの左腕には深々とトランプが刺さっていた。
「…ヒソカ」
愛用のトランプを捌きながらニヤついているイカれた奇術師だった。
ヒソカの周りには俺達の様に先頭集団からはぐれたと思われる受験生諸君。
…いやぁな予感しかしないのだが
よくヒソカの足元を見ればトランプが顔だの腕だの脚だのに突き刺さって息絶えている死体がゴロゴロと転がっていた。
「お前…何してる」
「ん?試験官ごっこ」
ニタニタと笑いながらトランプを捌くヒソカの瞳は狂気に染まっていた。
「二次試験くらいまではおとなしくしてようかとも思ったけど一次試験があまりにタルいんでさ◆選考作業を手伝ってやろうと思ってね◆僕が君達を判定してやるよ◆」
面白がりながら話すアイツはやはりイカれていて…
「そうだな…君達まとめてこれ一枚で十分かな◆」
ヒソカが一枚のトランプをとると俺達以外の受験生がヒソカに殴りかかった。…が
「!?」
ヒソカは踊る様にトランプを操り受験生を殺していく、辺りに立ち込める血の香りに思わず顔をしかめた。無惨な姿になる死体はどんどん増えていき悲鳴もまた死体の数だけ減っていった。
「残りは君達だけだ」
そう、残りは私達三人と76番だけ。
76番が合図したら逃げろ、と言われた。それはとても利口な判断、勝てない勝負、ましてや殺されるかもいけない勝負を受ける勇気なんて俺にはない。
「…今だ!」
その声がした途端四人がそれぞれの方向に散らばった。俺はやっぱりレオリオの事が心配なのであまり離れるような事はしなかったが霧が深くて気配を追い掛けるので精一杯。だが突然レオリオが引き返すのが分かった。
「っんのバカ!!」
銃をホルダーから取り出し引き返せばヒソカがレオリオの首を狙っていた。
「やめろぉーーー!!!!!」
無我夢中で発砲すればなんとか二人を離すことができた。
「おや、彼の為に戻って来たのかい?」
ニタニタと笑いながらこちらを見たヤツを見ると背筋を嫌な汗が伝った。
「てめぇの相手は俺だ!!」
「っ!?レオリオ!!」
殴りかかったレオリオはヒソカに殴られ数メートル吹っ飛ばされた。
「くっそ…」
ヒソカに銃口を向けた…筈だった。
首に当たる細いナイフのような刃物を思わせる物、目の前にあった筈の異端なものの気配が何故か背後にある。
体中が警鐘を鳴らす。逃げろと悲鳴を上げるのに動ける訳もなくただただ、背後にいる奇術師に怯えるだけだった。
「彼を助けに来たのかい?偉いね」
「そりゃどうも」
「震えているねぇ、それに、いい顔だ」
「…っ」
こいつ、わざと耳元で囁きやがる…やめろよ、なんかゾワゾワする…っ
「離せよ…」
「嫌だ」
首のトランプを押し当てられる。首筋に紅い筋が描かれた。
「んん?君の血は甘いにおいがするね〜◆」
「っ!?」
こいつ!首舐めやがった!!?
「実に甘味だ◆」
「てめぇ…!」
銃の柄の部分で奴を殴ろうとしたが軽々と避けられた。
「チッ…」
「いいねいいね〜…ゾクゾクするよ…」
ニタリと笑っているヒソカはゆらり…とこちらに歩み寄ってきた。