声を届けて
□第9話
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「アングラビシダス優勝は…山野バン、アルテミス出場は彼の手に!!」
湧き上がる歓声の中私はゆっくりと目を覚ました。
「んっ…おはよう、拓也さん」
「あぁ、おはよう」
まだ少しボーッとするが体を数回伸ばせば下で喜んでいるバン達が目に入った。
「拓也さん、いっていい?」
「駄目だと言っても行くつもりだろ?」
「ご名答」
VIP席の後ろにある階段を駆け下りれば一瞬ジンと目が合った気がした。
「…」
でも、今の私は信じていた友の元に走り出した。
「バン、アミ、カズ!!」
「「「ユキノ!!?」」」
「お疲れ様、いいバトルだったよ」
「嘘つけ、お前ついさっきまで寝てたろ」
「寝癖ついてんぞ」とカズにぴょんと跳ねている髪を掴まれた。
「あぁ、バレた?いや二回戦までは見てたんだけどね、拓也さんに朝早くに呼び出されたものだからね眠くて眠くて…」
「君はまだそれを言うのか」
後ろから拓也さんの声が聞こえた。まぁ、軽く根に持っているのは本当だ。
「…拓也さん!父さんの居場所が分かったかもしれません」
「「何!?」」
私たちはアングラビシダス後Blue Catsの店内にいた。
「ポイント579-934…海道ジンはそう言ったのか?」
「はい」
私はそのポイントをよく知っていた、いや、正確には知りたくなんてなかったけど知らざるおえなかった。
「まさかその場所は…」
「あぁ、海道義光の屋敷だ」
膝の上で握りしめていた手に自然と力が加わる。手がだんだん白くなって行くのが目に見えて分かった。
「海道義光?」
「先進開発庁の大臣じゃない…!!」
「そして、イノベーターの黒幕だよ」
静かに放った言葉にバンたちは驚いていた。おそらくそれには色んな意味が含まれているだろうけど今の私は見た目以上に重い気持ちでいた。
心の中に渦巻いている憎しみや怒りの感情が次第に復讐、という言葉に変わってしまう。やっと訪れたチャンスを無駄にしたくないという気持ちが復讐の念をどんどん増大させていく。頭の中は奴に復讐をするということでいっぱいだった。
「助けに行きましょう、だって、バンのお父さんがいる場所が分かったんですもの」
「っ…」
アミの言葉に意識がはっと我に返った。そうだ、今優先すべきことはバンのお父さんを救出することなのに私という奴は自分の怒りにまかせて突っ込んでしまおうとしていた。
「でも、あそこセキュリティ万全だから入るの辛いよ?」
私も何度かハッキングを試みたが多くて三十分ほどで引っかかってしまいそうになってしまうのだ。
「手伝わせてもらえないかしら」
店の入り口を見るとそこには髪の長い女性が立っていた。
「貴方は…」
「リナ…」
「海道邸のデータならここにあるわ」
そう言って彼女がとりだしたのはUSBメモリーだった。
「バン、あの人は?」
「俺にアキレスを渡した女の人だよ」
なんでも彼女は山野博士の助手だったらしい。名前は石森里奈と言うらしい。彼女が持ってきたUSBメモリーには海道邸の設計図のデータが入っていた。
「どこか安全な所で話した方がよくない?」
「それならあそこしかないだろう」
拓也さんは私たちを連れて車に乗り込んだ。
「へぇ…拓也さん達は博士の助手だったんだ」
「まぁな」
レックスや拓也さん、里奈さんはタイニーオービット社の開発研究部にいたらしい。私にとっては何ともうらやましい事だ。
「んで?目的地は?」
「まぁ待て…ほら、見えたぞ」
「見えたって…」
窓越しに現れたのは大型デパート、トキオシア、一瞬にして何が目的か分からなくなってしまった。
「お買いものでもしろって?」
「そう焦るなよユキノ」
隣に座っていたハンゾウがぽんっと頭に手を置いてきた。……なんかムカつく
「その手やめろ」
「おっと、おっかね」
馬鹿にしているようなハンゾウの態度に思わず唇を尖らせた。
車はGATE Aと書かれたシャッターを潜り抜け地下駐車場へと向かった。
拓也さんが駐車スペースに入った途端CCMを操作した、すると…
「なっ!?」
車が駐車スペースと共に下に降下し始めたのだ。
「…地下に地下…デパートの下で何しでかしてるのさ…」
最深部に着いた車は新たな駐車スペースに止まった。停車した車から降りるとそこには内部への入り口が有った。
「郷田は来たことがあるんだ」
「これからもっと凄いのが見れるぜ」
拓也さんを先頭に内部に入っていく、わくわくする好奇心を抑えながら進んでいくとそこには目を疑う光景が広がっていた。