声を届けて
□第8話
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「なんで私はここにいなきゃいけないのよ…」
アングラビシダス当日、ユキノはバン達のいるギャラリーではなく周りから隔離されているVIPスペースにいた。理由は前日に来た拓也からのメールだった。
家に帰っていたユキノは明日の為にリペアキットの確認をしていた。
「パソコンの充電もしないとな…」
突然、机の上に置いてあったCCMが震えだした。
誰からの連絡かと思いすぐに内容を見ようとCCMを開けばユキノは驚愕した。そこに書かれていた内容は…
『ユキノ、すまないが、君は明日バン達と同じギャラリーに降ろす事が出来なくなった。
何故だかは少し勘図いているだろうが明日はイノベーターの刺客が送られてくる可能性が高い、バンだけではなく君が狙われる可能性が高い、そこでわざわざ君を彼らと一緒にしては奴らの思うつぼが、だから、君は俺達と一緒に居てもらう、これは決定事項だ、異論は認めない』
というものだった。
まさかこんなに長い命令文を見るとは、とユキノは愕然としていた。
そういうことで冒頭に戻るのだ。
「そんなに不機嫌になるな」
「なるなって言う方が無理ってもんでしょう?あんなに長ったらしい命令文送られちゃぁね…」
「全くこれだから大人は…」と溜め息をつくユキノを見て拓也はユキノ以上の溜め息をついた。
突然照明が落ち中央に人影が浮かび上がる。
頬杖をつきながらその人影を見ていれば目を丸くした。
「ひ、檜山さん?」
下にいる人物は紛れもなくBlue Catsの店長の檜山だ。だが、本来この場に立っているのはこの大会の主催者にして伝説のLBXプレイヤーであるレックスのはず。
「拓也さん…まさか…」
「そのまさかさ」
拓也の言葉にユキノは先程までとはうって変わって真剣で、それでいて面白い物を見つけたというような笑みを浮かべた。
「諸君、アングラビシダスにようこそ、俺はレックス。この大会が俺の名のもとに開かれる事を光栄に思え」
「わぉ…超俺様」
「アングラビシダスは破壊の祭典、ルールがないことがルール。バトルはアンリミデットレギュレーションのみで行われる、尚且つ今回は特別に優勝した者にのみ、LBX世界一を決めるアルテミスへの出場権を与えてやる!最強のLBXプレイヤーを目指し存分にぶっ壊してやれ!!」
湧き上がる歓声…というよりも奇声が会場を包み込む。その様子を下から見下ろしてたユキノは苦笑いを浮かべるしかなかった。
「…ある意味下にいなくてよかったよ」
「…確かにな」
そんな中、対戦カードが発表されバンたちの対戦相手が判明した。
「バンの相手は首狩りガトーか…」
ユキノは即座にPCで相手のデータを調べ上げる。ガトーの顔写真を見た途端ユキノはあからさまに眉をしかめた。
「キモい…でもまぁ、ただのデカブツかな」
「頑張れバンー」とまったく気持ちの籠もっていない応援を送りユキノは別の対戦カードに目を向けた。
「どこまでやるか見せてみろ…海道ジン」
憎しみの籠もった瞳がジンの姿を捉えていた。
第一回戦、バンは右腕を切り落とされるも何とか首狩りガトーを撃破し勝利を勝ち取った。
「バンは二回戦不戦勝で三回戦進出か…」
「いくら片腕が取れたからと言って下に降りる事は許さないぞ、ユキノ」
「分かってますよーだ、それにそれは心配ないみたいだしね」
ユキノの視線の先にはパーツを交換しているバンと郷田の姿があった。
「アミ達に心配は不要だね」
試合をしていたアミ達のコートでも試合が終わった。
「やっぱり皆強いな…」
「お前も十分強いだろ」
頭に乗った大きな手、後ろを振り向けばそこにはレックスこと檜山が立っていた。
「檜山さん…いや、レックスって呼んだ方が正確か」
「君にそう呼んでもらえると光栄だよ」
「あんただろ、ハンゾウに私の事バラしたの」
「何か問題でも?」
「…あんたにはプライバシーとか関係ないみたいだね」
やれやれ、と首を横に振るユキノは二回戦のコートに目を向けた。
「アミ対ジンか…残念だけど」
彼女の言葉を遮るように試合は早々と終わった。先手をしかけたクノイチがジ・エンペラーも一突きを受け光を放つ。まさに三秒ほどの出来事だった。
「あいつは強い、今も…おそらくこの先もずっと…」
ジンを見つめるユキノの目は先程の憎しみなど消えたあまりにも切ない目をしていた。
「拓也さん…大会が終わったら起こしてください」
「いいのか、見ていなくて」
「うん、私はバンたちを信じてるから…」
椅子に凭れかかりゆっくりと目を閉じる。
「おやすみなさい」と呟いた彼女は直ぐに穏やかな寝息をたて始めた。
―――――fin